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藤森 シン
藤森 シン
novelistID. 36784
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仏葬花

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第四話 終わりを待っている




北側にある神社しか有名な場所がない、都会の中では田舎に位置する町。
「というか、なぜ居るの?」
「レンさんがいいって言ったよ」
「いえ、待って? レンさん? レンジェ・ソアレスのこと?」
薄い色素の三つ編みの男。彼はレンジェ・ソアレスという名前だったと、記憶から引き出す。社内の人間なんて調べればすぐにわかる。
シヨウは頭を抱える。いつの間に。なぜ。
「それじゃあ俺は北の神社見てくるよ。あそこ、繁盛期しか行ったことがないんだ。あ、最近話題になった名物があるから買ってくるよ。餅を餡子で包んでいる狂気の一品とかで、美味しそうだよねえ」
「ところで、あなたは私の練習相手になってくれないの?」
ジイドは呆けた顔をしていた。つまりいつもと変わらない。
「ええ、何言ってんの」
笑って露骨に目を逸らす。自然に振る舞えばもっと楽に躱せるのに、彼は正直だった。
「俺はですね、勉強が好きなんです」
「あ、そう・・・」
その感覚はノス・フォールンとして正しい。シヨウはそれ以上はやめた。
ジイドと別れ、道を進む。最近出来た区画は民家が密集しているが、昔からあると思われる区画は敷地が広い。庭には小さな鳥居や祠があったり、墓があったりするのがこの町の特徴だ。居住区から離れると畑や水田が広がっている。
シヨウが向かった家は、庭は広いが住居は小さかった。洗濯物が干されていた。
木の扉を開くと中から小柄な人物が現れる。
「じじい、久しぶりです。お元気そうで何よりです」
「師匠と呼べ。お前も変わらんな」
小柄で、でも貫禄を思わせる空気を纏う彼は、顔の前面を覆う仮面をしている。
すごいですね。どうして笑っているのを選んだのですか。前、見えているのですか。
あまつさえ、結わえている紐に手を伸ばす仕草までジイドならし兼ねない、と想像する。もちろん躱されるところまで。
シヨウの剣は譲り受けたもので、宝の持ち腐れだということで当時、道場みたいなものを開いていた彼に教えてもらっていた。
「して、今日は何用だ? 随分久しぶりだな。」
「有給消化。せっかくだしぶらりと来てみました。相変わらず」
「相変わらずの田舎具合か?」
「空気が澄んでる」
「でも、お前の故郷とは比べ物にはならないだろう」
「そりゃあ、まあ」
彼女は苦笑して話を打ち切った。
こことは比べる自体が意味を成さないほどに、あそこは澄んでいた。
「稽古の相手をして頂けませんか。この頃本当に鈍ってしまって。相手がいないから、尚更」
「稽古か、いいだろう。昼飯にするところだったからその後にするか。では裏から何か採ってこよう」
「あ、手伝います」
「お前は切るしか巧くないだろうが。向こうで踊るか雑草でもむしっていろ」
仕方なく、彼女は外に出ることにした。

小さな敷地いっぱいに建てられた小さな家の前にその人物はいた。
シヨウは声をかける。
「あなたがホシ?」
「あんた誰?」
「私は、少し前まであなたのお祖父さんのところに通っていた生徒です。あなたの話が訊きたくて来ました。どこか知らない記憶を持っているって聞いたけど、本当?」
正確にはひい祖父さんなんだけど、と付け足したあとホシ少年は続けた。
「またその話? 誰も信じないしもう飽きたんだけど。誰の差し金?」
「個人的に気になったから来たの。人伝に聞いた話なんてあてにならないから。あなたはその記憶をどう思っているの?」
「どうって、別に。だからどうしたって言われても」
「そう。それが正しい。あなたはあなた。ねえ、どんな風景が見えるの?」
「空が青っていうより碧色。でもいつも黄色い薄い雲で覆われていて、晴れている日でもなんか薄暗い。もう文化が出尽くされてて、何もかもどこかで見た気がするんだ。だからなんか皆疲れてて元気ない」
「あなたはそれをどんな気持ちで見ていた?」
「それは・・・よく覚えてない。覚えてないって言い方、変だけど」
「ふうん」
「ねえ、教えた代わりに訊きたいんだけど」何、と顔を向けると躊躇うように続けた。
「ユーメディカって知ってる?」
「もちろん知ってる」
「触ったことある?」
「あるよ」
「ここらへんてさ、どこにも無いんだ。一度も見たことない」
「嫌う人は多いし別に珍しくないんでない? でも、種なら持ってる」懐から出して掌に乗せる。「待って。手に傷とかない?」
「ないよ。いいじゃん、種なんだし」
「よくない。子供ならちょっとした傷でも発芽する恐れがある」
「これ頂戴。一個だけでいいから」
「ごめんなさい。この町が、大人が禁止していることを外部の私が干渉することは出来ない。でも花なら隣街の境目の河川敷に咲いていたと思う。今はあるかわからないけど。見に行く?」
少しの間を空けて少年は首を振る。シヨウは立ち上がる。
「面白い話をありがとう。じゃあさようなら」
道を歩く。天気がいいが、誰一人いない。

道場への帰り道、小さな小売店の前で井戸端会議を見かける。そこに知った顔があった。常連になっていたその店の者だ。さすが、あちらは顔を覚えていたらしく、シヨウに笑いかける。でも、周りの連中の顔が気になった。
「どうしたの? 誰が来たって?」
「それが、あの」ややあって、話し始めた。「お祖父さまのお姉さんの、あちらの子供に連なる人らしいの」
「そう言ってるの? 何をしに来たの、今更」
「一言謝りたいって。だから会わせてくださいって言ってるらしい」
「へえ」
「どうする? お祖父さまに知らせる?」
「いやあ・・・だって、ねえ?」
シヨウは輪を離れた。まだ陽は高い。
道場に戻ると彼は台所にいた。手際が良い。
「じじい。ちょっと訊きたいことが、というよりもう聞いていると思うけど。あちらに連なる人が来ているそうじゃない」
「らしいな。お前は会ったのか」
「いえ、聞いただけ。どうするの? 謝罪を受けるの?」
「あちらがそうまでして謝りたいのなら、私も鬼ではない、やりたいようにやらせるよ。ま、こちらが許すかどうかは別だがな」
仮面で見えないが声は笑っている。
「お、そうだ。この前ヨーギが来たぞ」
「へえ、ヨーギが・・・ってヨーギ? あの、ヨーギ?」
「そのヨーギだろう。いやな、十日も経っていないか・・・ふらりとやって来て道を訊かれたよ」
「そ、それで?」
「それだけだ。話を訊いてまたどこかへ行ってしまったらしい。それきりだ」
「どうしてわかったの?」
「見ればわかる」
昼飯が出来るまで、まだ少しかかるとのことなので外に出る。

「レヴィネクス、さっきの話どう思った?」
「どうとは」
「前世の記憶とやらを持つ少年」
「どうもしないが・・・なぜ訊く?」
「あら、あなたにしては歯切れが悪い言い方」
なんだか久しぶりに相談した感覚を抱く。
「それにしても。はあ。どうして私が来たときにこんな・・・本当に運がない」
水田を見渡せる民家の密集している端まで来る。民家を避けて、樹が面白くねじ曲がる樹があり、ここが待ち合わせ場所だ。遠くの建物をすべて排除し山を配置すれば、ここからの風景は実はシヨウの実家から見える風景に似ている。
「ジードはどう思う?」
作品名:仏葬花 作家名:藤森 シン