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藤森 シン
藤森 シン
novelistID. 36784
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仏葬花

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時間はまだある。シヨウは、聞いておかなければならなかったことの一つを訊こうと思った。どう訊こうか、ここ数日迷っていたが結局巧い言葉が見付からなかった。巧いってなんだ。計算して話さないといけない相手ではないだろうに、と思い至ったら冷静になった。笑えた。つくづく自分とは無縁だ。
「ジードは、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。俺は意外と優秀なのです。あれ、意外は要らないか」
「ではなくて、その、具合というか。調子はあれから」
「ああ」気が付いて笑顔の質が変わる。「全然。大丈夫だよ〜俺は意外と鈍感なのです。それと、シヨウがいたから、そこまで酷くならなかったのかもしれない」
殊更明るく言っているように聞こえたので余計に申し訳なくなる。
「ところで前のあれってさ、何?」なんだろうと首を傾げる。「なんかのおまじない?」
そう言われ思い当たる。
あの時、彼の目に掌を置き念じた。
「ここには誰もいない。自分一人だけの世界」と。
「昔の・・・知り合いのノスに聞いたことがあって。彼はとても強いノス・フォールンで、人混みなんかではそう思うようにしていたそうよ」
「へえ・・・」目を細める。「確かにそれは、わかる」
その状況に置かれ、実践している自分を想像しているのだろう。
「思い込ませることによって、脳を騙すって言い方はあれだけど、脳の負担を減らすのね」
「効果も多分それなりにあるけど・・・でもそれってなんか寂しい考えだな」
シヨウの座っている所は木陰だ。陽の光を避けて彼女は座ったが、ジイドはシヨウとの位置関係のみを考えて座ったのだろう。
彼の座っているところは陽に当たっている。
シヨウは瞬きをした。
ああ、確かに。
そう思ってしまった。


この前のノス・フォールン、いい感じだったではないか。
馬鹿っぽく見えるのは性格の所為で、本当は頭の回転も悪くないはず。そして優しい。だってノス・フォールンなのだから。
見付けたお目当ての人物は、樹の下の石で出来たベンチに座っていた。
けれど。
リアは勝負にならない、と思った。
一緒に座っている彼女がライバルならば勝てたはず。リアは結構もてるのだ。
でも逆だ。あれでは勝負にならない、なりもしない。
あーあ、やはり自分にはあいつしかいないかも、と最初から腹の底にずっといた人物を思い浮かべる。一途なジブンに酔ってみる。
「こんにちは〜」
近づくと、二人は話を中断しこちらを向いた。
「覚えてます? この前・・・」
「ああ」予想通り、想像通りの笑顔でノス・フォールンは応えた。「先日はどうも」
隣の彼女は、二人を見渡す。
「いえいえ、こっちこそ、どうもありがとう。すっごく助かりました」
「お役に立てたみたいで良かったです。でも本当になんにもしてないんだけどねー」
そして隣の人物を見る。彼女が、そうだ。
しかし。
「あれっ」
リアは気付き、まじまじと見てしまう。彼女の、血液に近い目の色は珍しい部類に入るせいか、あちらも真っ直ぐ目を見返す。
「あなた・・・本当はいくつ? そのままの見た目の年齢なの?」
隣のノス・フォールンが何事かと動いている。
「ゆっくり、歳をとっていない?」
「つまり、ノスフェラトゥ?」
その発言に、戸惑う色を纏った瞳の温度が急激に下がるのが見てとれた。
「まさか」
二人の反応を見て、彼女がさらに続ける。
「それって、どこか、病院か何かで判断してくれるのですか?」
この言い方。この子とっても変わってる。
「それはわかんないけど・・・ねえねえあなた、面白いって言われない?」
「言われませんけど・・・」
「えーっ嘘ぉ」
この反応がまた可笑しくて笑ってしまう。悪い意味では全然ない。
「シヨウは変わってるんだよ」
「シヨウっていうの? 私はアーシェリア。リアでいいよ。せっかくだから今から三人で、どっか遊びに行かない?」
「ごめんなさい。私は今から仕事があるので」
そう言って辞した。それなら、彼と二人で。そちらのほうが好都合だ。
この二人にかけがえのない何かの共有が無ければ、自分はまだつけ入る隙がある。
「そっか残念。じゃ今度、ゆっくり話そうよ。女二人で。甘いものでも食べてさ」
そう言ったときのシヨウの反応が今までで一番強かった。




作品名:仏葬花 作家名:藤森 シン