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藤森 シン
藤森 シン
novelistID. 36784
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仏葬花

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第一話 死者に手向ける花




ざわめく雑踏を脇道に入ると、そこは驚くほど静かだった。
錆びた色の壁が並ぶ。建物と建物の間隔が狭く、庇もほとんどない。
雪が積もることを想定していない家並みを歩いて女は呟いた。

(あいつ、許さない・・・。絶対・・・!)

腰には剣が二本、色褪せた革のベルトに差している。その足どりは速い。突然足が止まり、一つ向こうの路地を一点に、釘付けにされていた。
「・・・いた!」
小さく声が出る。左の壁に消えた。向こうはまだ気が付いていない。左に走る。
右に曲がり一気に通りに出る。その通りに人はいなかった。その男以外には。
男の前に立ちはだかる。その目は真剣そのもの。
というより殺気立っている。
「お前、よくも」
「わ、わ、わ、待て! 待て! 悪かった! 悪かったって!」
「謝っても、許さない・・・!」
右の腰の剣を抜剣、じりじりと寄る。男は罪を認め謝っているが、女は少しも謝罪を受け入れようとしない。

女の視界の端に人が入った。緑の髪の男。
前髪が長く、そのわずかな隙間から覗いているせいか、こちらからは表情はよくわからない。
心拍数が一気に上がる。剣を掴む手に汗が湧き出るのがわかった。修行が足りない。緑の髪の男は邪魔をするだろうか。止めるだろう。それが普通だ。
しかし抜剣している人間に迂闊に近づくだろうか。でも誰かを呼ぶだろう。
一緒に斬ってしまうか。でも、関係のない人間。邪魔だ。そう、うまくはいかない。世の中は大体そういうもので構成されている。
納剣し、女はその場を立ち去る。
これが最後のチャンスではない。また、機会はある。そう言い聞かせて歩く。
「た、たた、助かった! 俺の声が聞こえたんだな!」
背後から聞こえる声に耐えて足早に去った。



電力の供給が停まってから十年ほどが経つ。それを計画した意思と徹底的な策略、以前からの環境問題の不満もそのとき爆発したかのように、世界の電力の供給はわずか二週間で絶たれた。生活は激変した。世界がリセットされたかのように。これを機にもう一度、エネルギー問題を見直そうと世界の星府は立ち上がった。
しかし現状は変わらない。このまま、電気のない生活にしてしまおうという意見と復旧させる意見とで争っている。しかし電気はある程度ないと不便だ。便利なことを知ってしまったから。もう昔には戻れない。
しかし、復旧が始まった頃にようやく気付く。
もはやすべてに供給できないほど、人間が増えていた。

夕暮れが近い。この辺りは夜になると真っ暗になる。
人は朝起きて活動し始め、夜と共に眠る生活をよぎなくされた。
夜に備えて人が行き交っている。
(あの男、絶対気配無かったって! あぁもう! あの男さえいなければ!)
頭を抱える。動揺している自分がいる。修行が足りない。歩きながら一通りの問答と反省をして、それでこの問題は一応棚にあげておく。
一軒の店から女が出てくる。
「シヨウ! 遅かったから心配したよ! もう日が暮れるっていうのに」
長い金髪の女がシヨウに近づく。
「もう。どこ行ってたのよ。呼んでもいないから」
「色々・・・。ごめんなさい」
「夕暮れは危ないんだから。フリークスに襲われたらどうするの!?ってシヨウなら大丈夫かもしれないけど、でももしものことがあるかもしれないしそうなったら」
「はいはい、エリー。もう戻ろう。お客さん待ってるよ」
人々の情報のやりとりに便利なこの店はマニアの間ではちょっとした人気だ。ふらっと入り飲み物1つで何時間も居座ったり、情報を売り稼いでいる人間もいる。エリーと呼ばれた金髪の女はこの店のたった1人の従業員で店長である。
「こらぁそこぉ! 軟派は外でやって! あぁ壁! 汚れる! 床! あぁっ! シヨウ! シーヨーウ!」
「はい、はーい」
エリーが呼ぶときは大抵が手遅れになってからだった。抱えきれないオーダー数と調理や、掃除をしたり介抱したり。今回はそういう仕事。でも、呼ばれなければ自由時間だと言い渡されている。裏庭にいた彼女は店側にやってきた。
男二人組が嫌な空気を纏っていた。仕事の愚痴から始まったちょっとした口喧嘩だがエスカレートしている、とエリーが耳打ちした。
シヨウはそこに立ちはだかった。
「お客様・・・お話の声が少々大きいので外でされてはいかがでしょうか」
接客用の笑顔で言った。酒の入った相手に効くとは思えない、といつもシヨウは思っている。男はシヨウの腰の剣を見た。ここで働くときは上階の自室に置いてきているのに今日に限って差したままだった。
「あぁ? お嬢ちゃん? 何? 用心棒? すごいなあ偉いなあ」
「おい、もう出ようぜ」
言い争っていた相手が言った。
「よし、お譲ちゃん、俺が稽古してやる」
「お前! またそういう・・・。そういうところが付き合いきれないって言ってるんだよ!」
他の客はテーブルの上のものを避難している。でも酒を飲みながらでも遠回しに注目している。
「お、おい、こいつはヤベェって! 帰ろうぜ! この女知ってる、剣がすっげぇ強いってのもあるけど、確かノスフ・・・」
「うるせぇ黙ってろ。へぇ、お前強いのか。若いのにすごいなぁ。天才ってやつか」
酔っているにも関わらず素早い拳が飛ぶ。シヨウは後ろに飛んで、圏外に抜ける。男のテーブルから酒がこぼれていた。
「掃除・・・!」
自分の顔は見えないからわからないがすごい顔をしていたのであろう。男はシヨウに外に出るよう促した。彼女はそれに従う。連れの人が何やら言っているがとりあえず笑顔で応えるだけ。外に出てくれれば暴れることが出来るので都合が良い。さてどうすれば殺さずに済むか、その方法を考えながら店の外に出た。
「「あ」」
店の前の、広くもないが細くもない道に奴がいた。
昼間の緑の髪の男が。
「さあて始めようとするかあーって一度言ってみたかった台詞ぅ」
でもその足はふらふらだった。どうして人は客側になるとこんなに馬鹿になってしまうのだろう、と場違いな考えを巡らす。理不尽だとわかっていての提案、金を出すから・・・から始まる存在を根本から否定する要求。
シヨウはふと気が付いた。緑の髪の男がしきりに何か言いたげな動きをしている。でも逡巡している、ように見える。
というか、シヨウにはその動きの意味するものが全くわからなかった。
「気持ち・・・わる・・・」
そう呟きながら男はまっすぐではない方向へ少し歩き、その場に蹲ってしまった。
「大丈夫ですか!?」
緑の髪の男が素早く駆け寄った。
その速さにシヨウは虚を突かれた。
動けないでいる彼女の横を一緒だった痩せた男が通り過ぎる。
「そこの人ーすみませーん!」
緑の髪の男を見る。誰にでも穏やかだと印象させる外見だ。多分、先入観だろう。
そう思い直してシヨウも倒れた男の様子を見た。特に中毒の症状は見受けられなかったが自分の足で立っていられないほどには泥酔している。
「ちょっとちょっとーどうすんのお前はもう・・・」
こちらは足取りも意識も素面と変わらないように見えた。
「俺手伝いますよ。家近くですか?」
「うっわ助かる。いいの?」
倒れた男の背中を支えていた緑の髪が頷いて、痩せたほうが大まかな道の説明をしだす。そのやりとりをシヨウは見ていた。
作品名:仏葬花 作家名:藤森 シン