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荒野

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私は荒野にいた。殺伐としたその風景こそが、私が求めたそれだったのだと、見た瞬間に悟った。私は走りだしたい激情と、このまま静観していたい閑々とした気持ちとが入り混じって、最早私の知るべきところではなくなって、ただただそこに立ちつくした。その状態はある意味無に近く、ある意味永遠とも言えるような代物だった。その荒野には、植物などその類のものは一切なく、土と空とだけで構成されていた。空と土はまるで同じようなものにも見え、はたまたしかし、それらはお互いに干渉し合わない独立した存在であることが感じられた。私の入るスペースなどないような錯覚に陥った。そこは酷く寒かった。誰も受け入れようとしないその寒さは、私には親しみを感じられるものであった。私は孤独だった。そのまま消えてしまいたいくらいだった。このまま死ぬのは、ここで死ねるなら、何て楽なのであろうか。
その荒野には地平線と呼べる代物が無かった。土と空の境界線が曖昧と化していた。風が頬をさすった。それは思ったよりも優しく、思ったよりも残酷だった。風は地平線から地平線へと通り抜け、どこまでも曖昧となっていった。私はそれをただ見送った。すがっていたい気持ちがあった。けれども、その曖昧の向こう側の存在が、ただ怖かった。もう孤独なのだから、無くなって困るものなんて何もないだろう、そう思っていたはずだった。いざとなると一向に何も捨てられない。それらは錘と化して、それを拒んだ。皮肉だった。そうしている内に風は砂埃だけを残していった。風が一瞬強まって、砂が私の頬に傷を付けた。そこに流れる血を見て、ああ生きている、と確認した。だが、砂埃は空を覆ったのだった。私には足元しか見えなかった。方向が分からない。私が、目指すところであった荒野は、一瞬にしてその容貌を変えた。恐ろしい。その一言に尽きた。それでも親しみを覚えるのはなぜなのだろうかと考えた。考えた。それは、今まで空想でしかなかったこの荒野に、ずっと憧れを抱いていたこの荒野に、今でも同じような気持ちを抱いているからだと悟った。それが分かった瞬間、淋しくもなり、悲しみも抱いた。その気持ちはそっと抱き締めれば冷たく脆く危ういものであった。その脆さは、この荒野の中にも内包されていて、さらに悲しみを抱いた。
この先もここにとどまり続けることを考えた。そこはある意味私にとってはとても過ごしやすいところでもあったが、同時に壊れてしまいそうでもあった。私がいることで、荒野の均衡が崩れてしまう、そう悟ったのだった。そうこうしている内に、荒野の砂埃は落ち着きを取り戻したが、雷雲が迫って来た。荒野自体がある一定の意思を持っていたのだった。きっと出ていってほしいに違いないと思った。強い意志を持って、私を別の所へと運びたいようだった。こういうことは旅路の途中で何度か出くわした。それでも、この荒野は優しかった。優しさと厳しさ、今でも親しみを覚える。何が悲しいのか分からないが、目じりが熱くなった。
そうして私は、荒野を後にした。やはり後に先にも、こんなに切なくなったのは初めてだった。はっきりとした拒絶は、私を苦しませた。親しみは消えなかった。ただ、心の感覚は次第に薄れていったのだった。今では何も感じ取ることが出来ない。
ただ思い浮かべるのは、初めの高揚感のみである。
願わくは。
願わくは、あの荒野にも春が来ますようにと祈った。祈っている。
作品名:荒野 作家名:雛鳥