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おやまのポンポコリン
おやまのポンポコリン
novelistID. 129
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適性

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    【 適性 】

「君は今までにやって来たスポーツとかはあるの?」
 就職部の澤田さんが俺に尋ねた。

 この時期混み合う大学の就職部、卒業を控えてまだ就職が決まらない学生は必死で、他のテーブルでは指導員からの厳しい叱咤激励が聞こえていたが、俺が座るテーブルだけは何やらあきらめムードも漂って、和やかなものだった。

「そうすね。高校や大学ではスポーツ部に所属していませんでした・・・」
「それはなぜ? 運動音痴でスポーツをやるのは苦手だったとか」

「スポーツは好きなんすが、体育会系の上下関係がなじめなかったっす」
「だけど企業は、そうした関係を受け入れる人を好むんだよね。時には疑問を感じる仕事も上司の人が命令すれば従わなきゃいけないでしょ。組織というのはそういう所なんだから」

 28社目だったか29社目だったかで2次面接まで進み、「君が仕事をしていて、偶然なにか法的に見て好ましくない事がらを発見したらどうしますか」という質問があった。
 俺はきっぱりと「告発するっす!」と答えたのがまずかったんだろうか。
 澤田さんがもし、体育会系ならそんな答え方はしないと言うのなら、それは彼らに失礼な話だ。

「この間の脇元工業の時も、スパルタ研修があるのが合わないと言ったらしいね。でも社会人というのは学生と違って自ら社風に染まる姿勢も必要なんだよ。それからその、なになにっすという言い方も止めなさい」
 澤田さんはため息をついてお茶をすすった。

 そうかもしれない。しかし、自分を偽って就職しても一年ともたないのでは、結局その会社に迷惑がかかるのではないだろうか。

「君がね、自分というものを良く知っていて、はっきり物を言う事を悪いとは言わないよ。でも残念ながら、我が強すぎる。組織と馴染めないのなら、そこに入るのは無理だと思わない?」
 澤田さんはまるで子供を諭すように言った。

「これで48社アウトか。岩名屋商会なんかコンピューターの商社だからいいと思ったんだけどね。君、PC好きなんだろ?」
「そうなんすが、勤務地は遠方っす」

「末宗屋スーパーはどうだったの? 接客業」
「人と接するのが苦手っす」

「中剛知建設は? 現場監督が主な仕事だったけど」
「暑さ寒さに弱いっす」

「じゃあ何だったらいいの? 君がやりたい仕事ってあるのかな?」 
「そうすねえ。ジュースを飲みながらゲームをやって、感想を述べるような仕事があればいいっすね。それで家族を養える程度の給料がもらえれば最高っす」
 俺は苦笑しながら答えた。そんな仕事、あるわけがない事くらいは分かっていたのだ。

 だが、澤田さんは急に立ち上がると「あるよ! 確かそういう仕事があった!」と興奮した面持ちで立ちあがり、パソコンから資料をプリントアウトした。

 なんと、そんな仕事があったのだ。
 49社目ににしてようやく理想の仕事と出会えた俺は卒業後、めでたく就職することができた。


 ホテルを思わせる個室の中でジュースを飲みつつ、50インチの大画面で思いっきり好きなゲームをする。
 それでいて給料は俺の予想をはるかに超え、高額だった。

「だめだな。ラス・ボスが強すぎる。もう一度最後のステージをやり直すか」
 俺は一口ジュースを飲みながらゲーム機のリセットボタンを押した。

 その時、俺の体を激しい衝撃が襲った。

 泡を吹いて倒れる俺を、別室に待機していたスタッフが慌てて介抱した。

「大丈夫? 原因は何? ゲームで目がチカチカしたせいだったとか?」
 スタッフは矢継ぎ早に質問をした。
 彼らはゲームに原因があると思いたかったようだが、明らかにジュースにある。
 俺は「このまずいジュースが原因っす!」ときっぱり言った。

「おかしいなあ。この栄養剤、ニホンザルの太郎君では何ともなかったんだよね」

 そう。俺が得た仕事は望み通り、ジュースを飲みながらゲームをして感想を述べる事だった。ただし、感想を述べるのはジュースという違いがあった。

「それじゃあ回復したら、今度はこっちの治験106号を飲んでみてね」
 スタッフはニコニコしながら、俺の前に不気味な色のジュースを置いた。

          ( おしまい )
作品名:適性 作家名:おやまのポンポコリン