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欠片

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「遠方まで済まない。部屋は後程、パトリックに案内してもらってくれ。本当なら私が説明する予定だったが、つい先程、本部から連絡が入って、明日から国際会議に出席することになってしまった。申し訳無いが、家族を紹介したら私は帝都に帰る」
「どうぞお気遣いなさらないで下さい。御邸の間取りを教えていただければ、私達はすぐにでも配置につきますから」
 カーフェン中佐の言葉に、ロートリンゲン大将は其処まで厳重でなくとも大丈夫だ――と笑って返した。
「警備室に後で案内させる。一通りの設備はあるから、平生は型通りの警備で構わない。だが、外出の際だけは厳重に頼む」
 そうしてロートリンゲン大将は邸の中を歩いて行った。邸の中は高価であろう調度品が各所に設置されているが、格式張った様子の無い、落ち着けるところだった。邸のちょうど真ん中に当たるだろうか、その部屋にやって来るとロートリンゲン大将は徐に扉を開けた。
 その部屋はリビングルームなのだろう。広い部屋で、ソファが中央に置かれている。其処に、女性と二人の子供が居た。ソファの脇に立っていた女性は、綺麗な女性だった。ロートリンゲン大将の夫人は美人だという噂を聞いてはいたが、これほど綺麗な女性だとは思っていなかった。一度、遠目で見たことはあったが、こんな間近で見たのは初めてだったから、眼を見張るほど美人であることに驚いた。
 その右脇に、少年が立っていた。母親である夫人の手を握っていた。
 そして、もう一人の少年は車椅子に座っていた。おそらくこの子が長男なのだろう。母親に似た繊細な面立ちで、外に出ていないことを証明するように、肌が透けるように白い。
「紹介する。妻のユリア、そして長男のフェルディナント・ルディと次男のハインリヒ・ロイだ」
 夫人は此方に歩みよると、笑みを浮かべ丁寧な挨拶をした。そのことにも驚いた。旧領主家の人間というのは人を見下す風があるのに、そうしたところが全く無かった。
「ご面倒をおかけすることになりますが、よろしくお願いします」
 カーフェン中佐もバルト少佐も恐縮していた。それぞれ挨拶を済ませると、今度は長男と次男が挨拶する。一見するとどちらもよく似ていた。だが、長男の方は夫人に似て目鼻立ちが非常に整っており、大人になったらきっと女性にもてはやされるだろう。次男は父親のロートリンゲン大将の面影があって、その精悍さが少し窺える。
「それでは早々に済まないが、私は帝都に帰る。ハインリヒ、行くぞ」
 そう呼び掛けられた次男の方は、母親の影にすっと隠れた。先程、ゴードン氏が言っていたように、帰りたくないのだろう。
「ハインリヒ」
 ロートリンゲン大将がもう一度名を呼ぶ。すると次男はロートリンゲン大将を見上げて言った。
「どうしても帰らないと駄目……?」
「当たり前だ。お前も明日から学校だろう」
「ルディも母上もこっちに居るのに……」
「週末には此方に来ると言っただろう。ハインリヒ、早く来なさい」
「でも……」
 夫人が背を屈め、先に戻っていてね――と優しく語り掛ける。それに対し、次男は涙を浮かべて首を横に振った。
「ルディと一緒に此処に居る!」
「ハインリヒ。いい加減にしなさい」
「だって……」
「言い聞かせた筈だぞ。お前は学校があるから、私と共に今日、帝都に帰ると」
 ぼろぼろと涙を流す次男に、夫人は週末になったらいらっしゃいと優しく宥める。次男は泣きじゃくりながら、首を横に振った。
「ロイ。帝都で友達が待ってるよ。週末になったら、またこっちに来て遊ぼう」
 長男が泣いた弟に語り掛ける。穏やかな性格だとは聞いていたが、とても大人びた少年のようだった。
「だったらルディ、一緒に帰ろうよ」
 次男が長男の手を取った時、ずいとロートリンゲン大将がその側に寄って、次男の頭を拳骨で殴った。
 その光景に驚いてしまった。しかしそうした行動は普段のロートリンゲン大将を彷彿させた。
「行くぞ、ハインリヒ」
 次男の手を取って、ロートリンゲン大将は玄関へと向かう。その後を追い、玄関に向かう。其処には既に車が停めてあった。先程のゴードン氏の運転していた車とは違う車で、ゴードン氏がその車の前で待ち受けている。
「ハインリヒ様。一週間後にはまたフェルディナント様とお会い出来るのですよ」
 泣きじゃくり、車に乗りたがらない次男にゴードン氏が声をかける。ロートリンゲン大将は此方を見て、見苦しいところを済まない、と言った。
「離れて生活させるのは初めてでな。……それでは護衛を宜しく頼む」
「はっ」
 敬礼すると、ロートリンゲン大将はありがとうと告げる。そして視線を転じて、夫人を見遣った。
「週末には此方に来る。また連絡を」
「ええ。貴方もお気をつけて」
「フェルディナント。皆の言うことを良く聞くのだぞ」
「はい、父上」
 最後にミクラス氏に頼むと告げてから、ロートリンゲン大将は次男の腕を引っ張り、車に乗せて、去っていった。次男は後部座席からずっと此方を見、手を振っていた。



「皆様方のお部屋は此方になります」
 ロートリンゲン大将を見送ってから、ミクラス氏が邸の中を案内してくれた。俺達には客室をそれぞれひとつずつ宛がわれた。荷物は既に部屋に運び込まれていたが、その部屋の広さに驚いた。
 本当にこんな広い部屋を一人で使っても良いのかと思うほどに。
 浴室も洗面所も備わっており、ソファのあるリビングスペースと寝室が分けられている。そのうえ、寝室のベッドも二台設置されている。おまけにこの邸にはまだ客室があるようだった。
「此方が警備室となります。邸と庭にそれぞれ五台ずつ監視カメラを設置してあります。それからこれが……」
 流石にこれだけの邸となると、警備室も一通り装置が備え付けられていた。それらの機械の具合を確認し、近隣地域の地図を見ながらカーフェン中佐達と配置について話し合う。警備のポイントを確認し終えると、ミクラス氏が助かります――と言った。
「帝都ではいつも旦那様が眼を光らせてらっしゃいますが、此方は遠いので、当初はどうなることかと案じておりました。フェルディナント様の御体調を考えると、此方での静養が良いですし……」
「御長男は回復なさりつつあると聞きましたが……」
 カーフェン中佐が問い掛けると、ミクラス氏は頷いて言った。
「ええ。今はベッドから降りられるようになったところです。此処にいらっしゃる前は、薬も効かず、呼吸すら自力で出来ない状態でしたので……。帝都よりも此方の空気の方が綺麗ですから、フェルディナント様のお身体を癒したのでしょう」
 想像していた以上に、長男の具合は悪かったようだった。まだ車椅子から放れることも出来ないのだろう。
 あの年齢では遊び回りたいだろうに――。
「護衛、何卒宜しくお願い致します」
 ミクラス氏はそう言って、今度は棚の方に手を伸ばした。銀の盆の上に、封筒が重ねてある。その盆を側に置いて、封筒を一枚取り上げた。
「この度の謝礼です。お受け取り下さい」
 任務が完了してからだと思っていたばかりに、皆が驚いた。しかも封筒は分厚く、軍での日当以上のものが入っていることは明らかだった。
「いいえ。此方は任務完了時に頂きます」
作品名:欠片 作家名:常磐