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永山あゆむ
永山あゆむ
novelistID. 33809
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ヘリテイジ・セイヴァーズ-未来から来た先導者-(前半)

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第一章 ありえない出会い



 二〇三〇年。夏。
 広島県にある、日本三景の一つであり、世界遺産に登録されている厳島神社で有名な歴史ある島―厳島。通称、宮島。
 ギラギラと照りつける夏の太陽の下、港の近くにある高校へ通っている三年生の少年―菅原光大は、自転車で猛スピードを出して、学校へ向かっている。
 どうやら、遅刻ギリギリのようだ。背中には、剣道部で使用している竹刀を背負っている。
「・・・・・・ったく、なんで起こしてくんねーんだよ! 勝手にさっさと行きやがって!!」
 他人にブツブツ文句を言いながら、校門前にある駐輪場に辿り着いた光大は、すぐに自転車を置き、学校に広がるグランド場を走ってゆく。
 グランド場を走り抜いて、校舎に入ろうとしたその時。
 キーンコーンカーンコーン・・・・・・。
「やばっ!」
 必死に、下駄箱で靴を履きかえ、目の前にある自分の教室である三年A組の教室へと駆け込む。
「せ、セーフ・・・・・・」
 ギリギリのところで遅刻を免れたことに、ホッ、と息を漏らす。彼は自分の机に鞄と竹刀を置いて、席に座る。
「こうちゃん」
 自分を呼ぶ幼馴染みの声がする方へ、光大は顔を傾ける。そこには、巻き毛がかったふんわりとした髪型で、ぼのぼのとした雰囲気を醸し出す、森にいそうな女子―森ガールと呼ぶにふさわしい少女が立っている。
「ああ。おはよう、カエ」
 光大にカエと呼ばれた少女―高峰花楓(たかみねかえで)は、憂いを含んだ表情で彼に訊ねる。
「ギリギリだったけど・・・・・・またよっくんと二人で朝までやっていたの?」
「ああ。よっしーと二人で朝まで『妖怪無双』をずっとやってた。帰ろうと思ったら、面白すぎてハマってしまって・・・・・・。また、こうなっちまったってわけ。ははは・・・・・・」
「ははは、じゃないよ、もう~」
 遅刻ギリギリの理由が、隣のB組にいるゲーム大好きな二人の幼馴染み―清水葦貴(しみずよしたか)と、人気ゲームに熱中していたとか、花楓のみならず、日本の国民の誰もが、ハァ~、と呆れせざるを得ない珍事だ。もう少しまともな理由―「受験勉強を深夜までやっていたら、寝坊してしまったよ~」とか言ってほしいものだ。
「しょうがないだろ。止まらないものは止まらないんだ。・・・・・・ふあぁぁあ」
 娯楽のやりすぎの証拠である、あくびが漏れる。
 そんな光大のだらしない態度に呆れて、花楓は思わずため息をつく。
「まったく。こうちゃんがこんなにだらしないなんて思わなかったわ。わたしの作ったクッキーも欲しくないってわけね」
 花楓は自分が焼いたお手製のクッキーが入っているピンクの袋を取り出し、光大に見せる。
 ぼのぼのとした雰囲気がある彼女だが、その実、クッキー作りが趣味と言う家庭的なタイプなのだ。それに加えて、しっかり者だから侮れない。
 彼女のクッキーは、宮島の名産である、『もみじ饅頭』に匹敵するのだと言う。もっとも、それを断言しているのは光大だけだが。
 そう言って褒めてくれる彼が、不摂生な生活を送っているとなれば、一生懸命作ったお菓子は台無しだ。
「ま、待て。それだけはっ!」
 と、ピンクの袋に手を出す光大だが、サッ、と花楓が避け、背中に隠す。
 勢いよく避けられたため、椅子のバランスを崩しそうになる。
「フンだ」
 プイ、と顔を横に向ける花楓。どうやら、怒り心頭のようだ。
 光大は両手を合わせて、まるで神にでも拝むかのように、
「分かった、分かった! もうしないから! な!」
 花楓の心を傷つけたことを必死に謝罪する。
 彼女のツンとした態度には、こうする他に手はない。昔から怒ったら、こっちが謝るまで何も喋ってくれないのだ。
 花楓は必死に謝るそんな彼を一瞥し、
「じゃあ・・・・・・もう二度としない?」
「しない! 絶対に!! 花楓様に誓います!!!」
 女王様につき従っている下僕のように、光大は誓約する。
 そんな彼に満足したのか、背中に隠したクッキーを差し出す。
「えっ!?」
 そんな慈悲深き女王様の顔を、光大は見つめる。
「じゃあ、許してあげる。そのか・わ・り、約束を破ったら二度とあげないからね!」
「はは~、ありがたき幸せ!」
「もう、大袈裟なんだから」
 花楓は、受け取る光大の態度に思わず苦笑する。
 彼はすぐに袋を開け、中に入っていた星型のクッキーを取り出す。
 彼の命の源泉が花楓のクッキーとでも言わんばかりに幸せそうに次々と食べる。
「う~ん、やっぱりサイコーだぜ、カエのクッキー」
 光大は、食べながらを賞賛する。
「そ、それは嬉しいんだけど・・・・・・ね」
「へ?」
 急に強張った表情になった花楓が教卓の方へと指をさす。
 その方向へ訝しそうに見つめる光大。
そこには―。
「げっ!」
 ―コホン、と静かな怒りに燃えている担任の態度に、彼の一時の幸せが地獄へと陥落していった・・・・・・。