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そして海には辿り着かなかった

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世界はハイスピードで唸りを上げているトコロ


商店街じみた通りを挟む大通りには今日も渋滞が発生していてテールランプの赤さが連なる。
そんな車達のフロントガラスにはキレイな丸い月が映り込んでいた。
夏だ。夜だと言ってもむせ返るよう程の空気は居座っている。
渋滞のエンジン音がそれを一層増幅させている。
だがそれをかき消すように爆音が鳴り響く。
その音の主はここ数ヶ月は洗っていないことを主張しているような薄汚れた青いバンだ。
窓全開でまるで周囲を威嚇するようにそのバンは歩道沿いに駐車された。
中からゾロゾロと出てきたのは普段はどこに生息しているのか謎な連中。
クソ暑い中鋲だらけの革ジャンを着込んでいたり、唇にピアスを刺し髪の毛が四方八方に飛び散るように立っている。
ボロボロのジーンズにマーチンの10ホールブーツを履いた金髪の坊主が道ばたに唾を吐く。
気の弱い奴なら囲まれただけで即死しそうな面子だった。

で、その連中はそこから路地へ入りすぐに現れる小汚いスペースへとなだれ込む。
黒い鉄のドアの前には元々はホワイトだったであろうと想像できる椅子とテーブルが並にすぐさまそこに座り込む。
笑い声。怒鳴り声。空き缶が転がる音。
ドアの向こうから音が微かに漏れる。バスドラのリズムが鼓動を刻む。

あちこちの壁にはライブたイベントを告知するビラやポスターが貼られ剥がされさらにその上から貼られ層を作る。

スパンクが今夜遊びに来るクラブがここだ。
黒いドアを開ければ世間の喧噪とはまた違う、別の喧噪がある。

スパンクはもう到着済み。中でビールでも飲んで仲間と共にバカ話でもしている頃だろう。
表の100%正装しきったパンクス連中がその場の空気をトゲトゲしく変え始めていることなんて知らないだろう。
しかしそれに気づき始めている連中も少なからずいた。
そいつらは今日の出演バンドをチェック。
そこには巷で噂の勘違い狂暴パンクバンドの名が踊っていた。

「なんか客のマナーが底辺通り越してるって噂だよ。特に酒が入ると」
誰かがボソリと言う。
スパンクとその仲間達が目当てのバンドでないことは確かだ。
遅れて登場したスパンクの彼女ユキを迎え入れテンションは一気に加速する。
そこに外で鋭い目つきで周りを見渡していた連中がなだれ込む。
中には奇声を発している奴まで居る。

猿の宴。
ヴォルームは上がりっ放し。