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そして海には辿り着かなかった

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適当にその場をやり過ごす程度のパワー


「え?どうして?」
「それは・・・それはぁ、だから青春とゆうものが苦しくて痛いから!?」
「青春!セイシュン!!あははっ!なんか凄くやばいね」

「ぬははっ。いやいや、うん、ヤバイの。俺。だめなんよ。ヤバイと」
「どうゆうう風に?」
「ただもうおかしいだけで。なんつうか?ちょっと前はクスリ、ああ、このクスリはあれだよ鎮痛剤とかのね。
そうゆうクスリをかなり多めに飲んでさ、ウイスキーで流し込むんだ。飲むペースとか考えずにもうガツンガツンと。
瓶ごとストレートで流す」
「それってかなり危険じゃあ・・・」
「危険だね。でも身体張って地獄を見るんだよ。でないと正気で地獄見ないといけないし。
そうこうしてると頭がグンルングルンなって鼓動が激しくてもうこれBPMなんぼ?200?250?とかになってきてさ。
で、気づいたら朝になってて、ああ〜生きてるぅーって喜びをそこで噛み締める」

「なにがそうさせてんのよ?」
「なにが?ん?んんー?なんだろ?」

「ひょっとして馬鹿?」


だから、だから、だから、退屈し切きっていた。
いや、少なく見ても周りには完全にクチからエクトプラズムが出る勢いで退屈と戦ってるのが数人はいた。

大学構内。
この大学唯一と言える大講義室。階段状に椅子と机が連なる坂の景色。

一番後ろが死角100%なのをいいことにディープに愛を確かめる者達が必ずと言っていい程拝めるエロスポット。
ひょっとしたらそいつらは毎回ここを利用している客かも知れない。

で、そんな光景に破綻したのか、馬鹿扱いされながらわけのわからない話をしていたのがナリタ。

映像学科の2回生。

なんとなくナリタの頭によぎったのは虚言癖のある変態に憧れる凡人なあの娘の笑い顔。
(ああー俺もそんなふうに思われただろうな)ため息。


「でもさー、朝目覚めた時にすべてに感謝できる生き方ってのもそれはそれでアリかもね」
慰めるように言うのがモンチっていう女の子。ナリタと同じ学科で学年。

SKA好きの友達があの娘のために駅のホームからジャンプする。
未来を蹴飛ばすかのように高く高く足を上げて飛び出すんだ。
「俺達に与えられてるのは適当にその場をやり過ごす程度のパワーだけだからね」
バイクにまたがって微笑むギター弾きの話だ。
「善と悪ってなんだ?」
薄暗い廊下ぬ座り込みそいつは瞳を曇らせる。
誰が笑える?誰が答えを持っている?
「見事に人を傷つけな。弱い奴なんて蹴飛ばしな。リッチに人を見下しな」
オールディーズに熱を上げるアイツのレッドウィングはキレイなままだ。
OK。そいつはまだ自分が蹴飛ばされる側の人間じゃないって思い込んでるだけだ。
で、何も終わっちゃいない。
60年代に狂ってるあの娘は金切り声を上げて走り出した。
もちろんフラついてるけど。
きっと料理が大好きだって言ってるあの子の赤い髪はキレイだよ。
だけどなんの中身もないままだ。
公園で寝っ転がって道行く人々に期待しながら太陽の高さにイラついてた。
工事現場の柵を越えて。

・・・・・・・・・・・・

「もうすぐ夏だなー」
きゅうに居眠りしていたこれまた同級生のイチヲがあくびまじりに起き上がる。

「それがどうしたっていうんだ?」ナリタはポツリとつぶやく。
「いやーあれだな。もう夏だな。めちゃくちゃ暑いもん。さっき坂んとこの桜。あっこで蝉ボトボト死んでたよ」
「はぁー?じゃあもう夏終わり間近じゃねえのか?」

イチヲの無駄なテンションに思わず声を出すナリタ。
そうこうしてるうちに終焉する講義。
こうしてどんどんいろんなものが気づいたら終わっていく。

愛すべき馬鹿達はまだボーッとしたままだ。
他の奴らがざわつきながら立ち上がるのを見てやてやっと終わったことに気づいた。

まさかもう俺達はとっくに終わってることに気づかずに生きてるんだろうか?
いや、そもそもなにが終わるっていうんだ!?