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ふたりの漂流記

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ふたりの漂流記



夕暮れ時だった。トイレの外では鼓膜を破りそうな銃声や叫び声が相次いでいた。これはあくまでも想像なのだが、数人の海賊がそのクルーザーに乗り込んで来て次々とサロンや後部デッキで裕福な人たちを射殺し、現金やカード、腕時計、宝石などを奪い取り、逃げ去ったようだった。理由は不明だが、死体は海に棄てて行ったらしい。海上強盗事件は船酔いのために白瀬孝之がクルーザーのトイレに入っていたときに起こった。そして、彼が隠れていた十数分間に終息したようだった。
重い静謐が訪れてから更に数十分間の後、トイレから出た彼は船内の多くの壁に飛び散ったり、様々な場所の床に流れた夥しい血液を見て驚愕した。船内には既に変色しているものの、血液の臭気が充満していた。彼は再びトイレに駆け戻ったが、もう吐きだすものはなかった。
 船尾にあった釣りのときに使うバケツで、彼は海水を汲みあげた。その水とデッキブラシを使って血液を洗い流すことにした。汲みあげるとき、百メートル以上は先の海面に、何体か遺体が浮かんでいるのが見えた。日没直後の空は美しく、海も美しいと思った。だが、陸地は一切見えなかった。
作品名:ふたりの漂流記 作家名:マナーモード