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フレンドボーイ42
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不審火は不知火

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<Scene1 刑事>

 「…不審火ってやつですか」
 「ええ、火の元もないのに放火でないはずがありません。誰かが付けたに決まってるんですが、ここらへんは最近雨が降ってしまっているのでよくわからんのですよ。あんまり解決しないもんだからネット上では怪奇談などとして盛り上がられていい迷惑ですよ。そういうお客はよく来ますけどね、一般のお客は来なくなってしまって。温泉地としては由々しき事態です」
 「温泉地とはいえ、この山小屋は源泉からも人里からも離れているわけでしょう。イタズラかなんかだと思いますけどねぇ…。まあでも、この温泉地は私もよく来る場所ですから、こんなちっぽけなことのために評判を落とすなどもってのほか。こちらも協力しましょう」
 「警察の方にそう言っていただけるとはありがたいです。ぜひよろしくお願いいたします」
 「ええ、もちろん」

 #

 「見つかるんですかね」
 燃えた山小屋を見て言う。
 後輩、山上。
 年齢はまだ26歳。
 彼から見ればかわいい女の子ではあるが、諦めやすいのが玉に瑕、という感想を持っていた。彼としてはぜひとももっと辛抱強くやってくれよ、などと思うのだが、そればかりはイマドキっ子なのかもしれないとさじを投げている時もいくらかはある。結果が目に見える仕事じゃないと遣りたがらないのは別に大人として生きるのが長いおっさんどもも変わらないことだ。それをやれ「最近の若いもんは」「これだからいまどきの奴らは」とか言うのはよろしくはない。大体今時の若者が本当にダメならば彼らの文化は作れない。
 とはいえ、刑事の仕事に諦めやすい性格などマイナスにしかならない。結果なんかすぐに出るはずがない。というか出ないことも、ザラにある。それでもこんな仕事をしているなんて、まったくおかしいもんだよなぁ、と思うのはもちろんだけれども、諦めては解決なんて近づかない。
 「…足あとは…私と先輩のだけですねぇ」
 「そうだな」
 「どうするんですか?まさかまた先輩のことだから夜も来るとかそんなことを言うんですかね」
 図星過ぎて少しよろける。
 「言うんですかねって、…おまえなぁ…。まあ来るけれども」
 「来るんですか」
 「来るさ」
 「呪われちゃいますよ」
 「呪われればいいじゃないか」
 「いやですよ」
 「いいだろちょっとくらい」
 「わざわざこんな暗い場所に」
 「そうだぞ」
 「そうだぞ、じゃなくて」
 反発が大きい。
 そうかもしれない。
 女の子を連れてくる場所ではない。呪われる、なんていうのはさすがにないだろうが、ムード的にはアダムスキーさんが未確認飛行物体を見つけてしまっても何ら不思議がないアウラがある。つーか、そんなことを考えんでも、不審火が起きた時点で怪しさはある。
 不審火、を起こすいたずら。
 何かを隠すには都合が良すぎやしないか。
 もしかしたら本当に危険な人物がいることもあるだろう。
 でも、彼女はもう来る気がなかった。
 「ちょっと来るくらいなんだってんだよ」
 「無茶言わないでください」
 「おまえなぁ」
 「先輩だけじゃダメなんですか」
 「なんのためのタッグだと思ってるんだお前は」
 「…」
 「否応なくだ」
 「否応なく、ですか」
 「否応なく、だ」
 「…そんなぁ」

 #

 ゆったり入ったものの、風呂から部下より早く上がった彼は、しばらくして出てきたほてり気味の山上を見て少し胸がなる。
 「ここ、温泉は気持ちいいんですね」
 「かっ!」
 牛乳を吹き出しそうになる。
 「温泉はっ、ってぇ、…お前なあ、温泉宿で温泉以外に行く場所も見るものもないだろうが」
 「最近はあっちの小屋があるじゃないですか。私は嫌ですけど」
 「あれは景勝でもなんでもないってのに」
 彼はため息深く、
 「あんな噂広めて多くの連中が行くんだろ?」
 「なんか時々焼け死ぬみたいですけどね」
 「なかば焼身自殺しに言ってるみたいなもんだよな」
 「本当に焼いてんのかもしれませんね。そのほうが嬉しいですけど」
 「バカやろう、自殺するようなやつじゃなくても焼け死んでるんだぞ」
 「人の心までは読めません」
 「はいはい」
 呆れる上司に、部下は問う。
 「なんでここにこだわるんですか、こんなに」
 「ここが好きなんだよ、ここが」
 「ここが、って先輩、この温泉ですか」
 「よく来てるんだよ俺は」
 「おじさん臭くないですか?」
 「おじさんだろうがよ」
 「おじさんですけども」
 「じゃあいいだろうがよ」
 おじさん臭いからオーケー、というのはさすがに乱暴すぎる気はしたが、まあ、でもいいだろうと思った。この子に色々言った所で何だという話である。それはこっちの問題、つーかどうでもいい話。
 「卓球するか」
 「私までおじさんの道に引きこむ気ですか」
 「引きこむ…ねぇ…いいかもしれない」
 「いいかもって…ドン引き」
 「うるさいやるぞ」

 若い子と卓球をする。そうやって色々なポーズを見るにつれ、いいなあいいなあと思っていく。それがおじさんだ、彼はそう確信する。
 妻子も家にいるというのに、もっぱら性的な想像ばっかりしてしまった彼が、そうこうして食事をしたりしているうちに、すっかり夕日も落ちて、絶好の調査日和になった。

 #

 「かえりましょうよ…ねぇっ先輩、かえりましょうよぉ…」
 面倒くさいと言うより怖がっている。
 「いやですよぉ…」
 手に寄せる感触、ムードを気持ちいいと思いつつ、それでも小屋まで行く。

 燃えてもある程度外形はとどめている。
 入ってみる。
 「もういいでしょ先輩…」
 震えている。
 かたかた震えている。
 震えて動けなくなっている山上を、彼は押し倒してしまう。
 「せんっ、ぱいっ…」
 「…」

 狼藉を働く。

 「ちょっと…えっ…」
 抵抗しようとする手は虚しくも押しのけられ、次第に彼女は諦めてしまう。

 その時、辺り一円が火で包まれた。
 「な…」
 下着を取ろうとしていた手が止まり、指は震えて布の中に滑りこむ。
 火が火柱になる。
 「ちょっと、えっ…いったい、どういう、ことっ…」

 二人を包んで静かに燃えていく。

 火柱が立ち、それは一晩中燃え続けて、また焼けた木々の中に焼けた小屋がある。燃えた警察の亡骸は実家に帰っていく。倒れ込んでいたのは守ろうとしたからだとか、いい方に話は流れ、それとは真逆に温泉宿はさらなる経営不振を招くようになっていた。半ば諦め気味に、ホラースポット巡りの若い団体客を接待する、頭のいたい生活はまだまだ続く。

<Scene2 学生>

 噂が独り歩きするくらいにホラーチックな場所には、そういうお客は集まるものだ。
 そして、男子学生がそういうことを企てる時、そのパーティには弱気な男が一人いるもんだ。

 「ったく、弱気になるとかやめてくれよな、このタコが」
 「…だって、さぁ」
 「だってあさっての話じゃねえんだバカタレがぁ」
 「くそったれがぁ」
 「はなたれがぁ」
 「そこまで言うこともないじゃないか」
 「そこまで言うことなんだよ、味噌粕」