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その先にあるもの。

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人に迷惑をかけないようにする心。
最善の結果を出そうとする心。
嫉妬で満ち溢れた心。
悪意と憎悪の心。
人を敬い、鏡とする心。
他人を気遣い、優しく接する心。
それぞれ違うけど、同じ心から作り出されるものだから、大事にしたいって思うのだろうか。
私は、人の心を見れるようになったあの日から、そんな風に感じるようになった。
だから、その人が心から望む言葉を言ってみたいと思ったのだ。
それで、一人でも多くの人間の心が、救われるのなら――。
「星夏(しょうか)、また授業中寝てたの?よく先生に怒られないわね」
「何時もより廊下が騒がしい…。おかげで目が覚めちゃったじゃん。女子は、何に騒いでるわけ?」
「ほら、もう卒業式近いじゃん?三年の小阪(こさか)先輩が卒業しちゃうからその姿を今のうちにでも目に焼き付けておくんだって」
「へぇー」
小阪小百合(こさか・さゆり)先輩。
成績優秀、容姿端麗、その上、性格も良くて、強か。
女子生徒の憧れの存在。
「でもさぁ、確か、小阪先輩って妹さん居たよね。七年前、誘拐されて殺されたってきくけど、本当なのかなぁ」
「誘拐?」
「ああ、うん。小阪先輩の家ってさ、お父さんが大企業の社長さんでそこそこお金あるらしいの。身代金目当てで、警察がお金の引渡し現場を取り押さえて、犯人は捕まったらしいけど、妹さんは帰ってこなかったんだって。いくら探しても見つからなかったらしい。警察が犯人の事情聴取をしたら、『妹は殺して捨てた。死体が欲しいっていうなら、探してみろよ』って言ったらしいよ」
初めて聞く話だ。
「結局、妹は見つからなかったんだ」
「そうみたい。なんかさぁ、お嬢様って感じで、何の苦労もしてなさそうな人だと思ってたけど、その話聞いたときは、小阪先輩に対する印象が変わったなぁ。気の毒っていうか、平気なんだろうかみたいな。もう七年前だし記憶もあやふやだったりするのかもしれないけど」
その妹さんは、小阪先輩にとって大切な人だったのだろうか。
もし、そうなら、いくら七年前でも、その過去は鎖となる。
決して逃れることが出来ない呪縛に――。
つい、夕飯を食べながらボーっとしてしまっていた。
「星夏、学校の卒業式は何時なの?」
母に問いかけられて、卒業式が一週間後に控えていることを思い出す。

「星夏…?どうしたの、ボーっとして」
「あっ…うん、三月十五日」
「もう一週間後じゃない」
一週間後…。
『友達から聞いた小阪小百合の話が事実であると確認できたわけじゃない。本当のことは、本人の前にいかない限り分からない。で、どうするんだ?』
心の中から声が聞こえる。これは、もう一人の自分。
『確かめてみる』
とは言ったものの、小阪先輩とはなかなか会えない。
「どうしたの、そんなにへこんで。何か悩み事?学年末試験の結果、もしくは成績が心配とか」
「それも心配。成績悪かったら今度は何言われるのか内心不安で仕方ない位」
「星夏は、その心配ないでしょ。少なくとも私よりは…。授業中寝ているくせに、テストの点数、私より良いんだから、真面目に聞いている人が可哀想」
「友恵(ともえ)は、ノートに落書きしてるでしょう。私とあんまり変わらないじゃん」
「変わる、変わる。姿勢良いもん。そして、一応、授業きいてるし」
「聞いてても、ノートにメモとってないと、忘れるでしょうが。意味ないじゃん」
「そういう星夏は、寝てるけど、ノートにはちゃんと書いてあるよね。誰かからノート借りて写してるの?」
「寝ている間に手が勝手に動くの」
「何それ。超能力の一種か何か?」
手が勝手に動くのは事実だ。
心の中のもう一人の自分が私の変わりに書いてくれるのだ。
とても便利な上、私が書くよりも綺麗にまとめてあるのが更に便利な所である。
「あーっ。もう、明日、卒業式じゃん。もう無理だって」
「何が無理なの?」
「いや、別に」
「話したくないなら、仕方ないけど、たまには私に相談してよね」
「分かってるよ。夜中にメールで深刻な話をしてあげっよっか?」
「それ、ただの嫌がらせでしょ」
「ほら、私は睡眠時にも手が勝手に動くから、友恵の睡眠時間を削っちゃおう作戦。今、考えたにしては、とても良い案だとは思わない?」
「よく考えられるね、そんな嫌がらせ目的の作戦」
「お褒めに与り光栄です」
「褒めてないし」
何だかんだ、こんな話をしながら毎日を過ごすのが、もはや日課となっていた。
前の自分と今の自分が違うように、すこし前の日常と今の日常は違う。
人の心を読めるようになってから、いきなり今までとは違う非日常の世界に投げ出されて、最初はどうしていいか分からなかったけど、何時の間にかそれが日常になっていって、今では心を読めることが当たり前になっていた。何時か、突然、その能力を失ったら、また非日常の世界に投げ出されるのだろうか。それでも、少ししたら、当たり前の日常になるのだろう。その慣れが恐ろしいととくか、素晴らしいととくか。武器を取ることが普通になって、人を殺すことが当たり前になっていく世界を目の当たりにしたら、恐ろしいと思うのかもしれないし、今までは一人も友達が出来なかったのに、一生の友達と出会えて、協力していくことが普通になれば素晴らしいと思うのかもしれない。
果たして、私はどちらだろう。
「ねぇ、見て。桜の蕾。今年もまた、綺麗な桜が見られると良いね」
「…うん」
だんだん、暖かくなっていく季節だ。
三月十五日。
『卒業式』
その卒業式自体も、もう終わり、今は先生や後輩達と話しをしたり、写真を撮ったりしている。
小阪先輩と話をしたいのなら、今しかない。
「小阪先輩は…、何処?」
人が多すぎて見つけられない。
『星夏、上だ』
「上…って、教室?」
階段をいっきに駆け上り、息が上がる。
本来なら三年の教室に行くのは気が引けるが、今、教室に居る人はいないだろう。
三年四組。
小阪先輩の教室。
…やっと見つけた。
小阪先輩は、私に気がついて、微笑んでいる。
その瞬間、星夏の中に小阪先輩の心の声がなだれ込んできた。
妹さんを思う心の声。
それは、とても強い思い。
『「犯人の目的は、妹を殺すことだったの」』
「あなた、名前は?」
「大宮星夏(おおみや・しょうか)…です」
『「犯人はね、一ヶ月前に、父の会社でリストラされた人だったの。そのせいで、妻が子供を連れて出て行かれたらしくて、大切な家族を失い、その怨みを、妹を殺すことで晴らした」』
「大宮さん…?」
『「犯人の行動が間違っているって、小さかった私でも分かった。でも、いくら間違っていると言っても過去が変わるわけじゃないし、未来がよくなることもない。だから、もう、忘れたいのに…、終わりにしたいのに…」』

幼い頃に刻み付けられた不の記憶は、成長してからも忘れられず、ずっと引きずり続ける。その後の人生を変えてしまうほどに――。
「妹さん、きっと見つかります!」
「えっ…?」
小阪先輩は驚いたような表情をした。
しまった、確実に話すタイミングを間違えたと、後悔しても、もう遅い。
「えっと…その、小阪先輩の妹さん、亜由美(あゆみ)さん…は小阪先輩にとって大事な人だったんですよね。大切な人だったから、今も忘れられないんですか?」
作品名:その先にあるもの。 作家名:扇屋