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フレンドボーイ42
フレンドボーイ42
novelistID. 608
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ペットボトルと猫

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 平和だったはずの町内に、困り果てることが起きていた。
 ドラ猫が、町内のいろいろなところを荒らし回ったのである。
 子供を引っ掻き、ゴミ置き場を荒らし、人の庭に糞をしていく。
 町内会では回覧板を回して警戒をしているが、警察も市役所も面倒臭がって動かない。たかが一匹の猫ごときに動いてやるものかという感じなのやもしれない。
 しかし、ノイローゼになる人がいる。トラウマになる人がいる。
 すばしっこいし、同じ家の庭に何度も糞をするし、せっかくいい実りだった家庭菜園も荒らすし。
 捕まえられず、いつもあと一歩でかわされ、得意満点にうるさく何度もニャーニャーニャーニャー喚き立てる。同じ子供の傷を再びひっかく。
 引越しを決める人もいた。一方で、住み慣れた町を離れることにためらいを持つ人もいた。せっかく仲良くなった人の絆を捨ててまで新天地に行くのかと、という気分になるようだ。ある人々はまた、家のローンに縛られ、ある人は向いの家の娘の笑顔に縛られる。
 たかが猫一匹なのに、ここまで地域社会を荒らすなんて。

 #

 こうまでなったのは、あの似非教団が信仰の一環だのなんだの言って餌付けをしたからだ。
 半年前からのうのうと町内に居座って変な言葉をぶつぶつとつぶやき、真昼間でも火を付けた棒を持って2、30人で行進し続ける連中。
 猫を大切にするというスローガンはどうぞあんたらの建物でやってくれとお願いしに行けば、「神のもとに、命を差別するのか」と言い、一歩も引いてくれない。
 教祖と思しき中年のオバハンは猫をいい気にさせてしまった。今はその教団も猫の処遇に困っているみたいだ。ざまあみやがれ。

 #

 洗濯日和だった。
 干していたものをすべて取り込んで、んーっと腕を伸ばしていると、足元で何かが動いて洗濯物が庭にぶちまけられた。
 あの猫だと直感で推測した。
 「あの野郎」
 家に入るとまずガラス戸を閉め、鍵をかける。
 これであの猫は袋の鼠だ。食う方から食われる方になったな、とつぶやく。
 テレビの裏から出てきた猫は、そのまま階段を登り、僕の部屋のカーペットを荒らすような布の音がした。
 冷静に階下にて箒を持って待ち伏せるが、奴は跳び掛かって額を引っ掻いた。目じゃないか確認しているあいだに、皿の割れる音がした。
 食器棚を荒らしやがったな、と我を忘れて走った。
 皿がガシャーン、ガシャーンと割れていく。猫はビールジョッキに手を伸ばす。ジョッキが倒れ、猫が中に入っていく。
 …そのまま落ちた。
 破片が突き刺さったらしくもがいている。ふらふらと動くその姿に機敏さはない。

 気がついたら、血でてらてら光る包丁を握りしめていた。

 #

 皿としたいをゴミに捨てて、包丁も山に埋めた。本来よくない処分法だが、気が動転していて疲れてしまってどうでも良くなった。
 家に帰ると、殺したのは自分なのに、ペットボトルに水を入れて3本窓においた。効果はないらしいとか、猫は別に水を怖がらないとか、収斂火災の危険があるとかそんなことはどうでもよかった。気を安らげたかった。
 大きいペットボトル2本、小さいボトル1本。小さいのが風で倒れたのを見て取りに行こうと思ったらあの教祖のオバハンがいたので一回戻り、後で確認を後ろからしたらペットボトルを持っているのがわかった。
 (ババァにもなって犯罪ですか。水道水ペットボトルごときネコババですか)
 ある意味猫と猫婆で気があったんだろうか。

 #

 明くる日、外に出ると隣宅の人が、
 「俺、今日引っかかれちゃったよ」
 と言ってきた。
 「…今日ですか?」
 「そうなんだよ。いやああの猫参るよねえ」
 ぞっとした。
 複数いるのかもしれないというわけではなく、もっと変で、しかし仮にそうだとしたら自分としてもっと怖く、もっとも怖い可能性。
 (科学的じゃない)
 否定すればするだけ、余計に震えて
 「どうしたんだよ、大丈夫か」
 心配されて我に返る。

 #

 家に帰ると、布団に潜り、頭まで被る。死んでないか、生き返った…まさか、化け猫だなんて。
 そんなわけない。
 科学的以前に、時間的にまだ日が昇っている。そんなわけない。

 ただ予想はいつも悪い方に当たるものだ。

 影が見えて、そーっと隙間から覗くと、見慣れた斑の、しかし猫と言うよりライオンやらなんやらといってよさそうなサイズの。
 こっちがいないと思ったのか、猫は一回離れた。
 ほっとする。
 だが。
 スマートフォンが鳴って、猫がそれに引きつけられてしまった。
 忘れていた。動転しすぎたか。
 今日本来なら彼女とデートするはずだった。家の前にでもいるんだろうか。だったら逃がさないと。そう思って怖さの中でもスマートフォンをとりに行く。
 当然、見つかる。
 「フシャーッ!」
 窓に何度も突進してくる。
 空き巣も入れないような強度は誇るガラス戸だが、化物対策をメーカーがしているはずもない。急いで電話を取ろうとするが、手は震え腰は抜ける。
 その時猫背になった僕の視点ではまだ見えなかった。しばらくすると猫の体はなんやら揺らめく光に包まれた。眩しいのはペットボトルだろうか?
 違う。光じゃない。猫が燃えているんだ。ペットボトルは、むしろ燃やしたほうだ。
 猫の悲鳴が騒がしく、あたりの人がワイワイ集まる。ドアをどんどん叩く音がする。心配性の彼女ならやりそうなことだ、とすこし僕は自分の行動が情けなくなる。

 #

 近所の人が消火器を持ってきて火は消え、それでも猫は十分に焼けたのか死んでいて、それを野次馬で見に来る近所の人たち。
 「あの猫さんこんなにでかかったか」
 でかくないでかくない。
 「でも斑の位置は似てる気が」
 まったくおんなじ。
 住民たちは知らない。
 僕がやってしまったことを。
 彼女が僕を見つける。
 「…怖かったの?」
 何も言えない。
 「…怖かったんだよね?」
 「本当に、情けない」
 彼女を、このままじゃ守れない。自分が火種巻いた化け猫をあしらうことすらできないなんて。
 恥ずかしくて帰ろうとした僕を捕まえて彼女は言った。

 「こんなところ…引っ越そうよ!一連の猫の問題が片付いてからでも戻るのは遅くないよ!私と一緒に、…あの町へ行こう!」