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夢見 多人
夢見 多人
novelistID. 35712
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自分嫌い同盟

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始業式が終わり、中学三年生としてのスタートを切った綱木守は、他三十九名の生徒に混じって廊下を歩いていた。騒ぎ立てる様子も無く、時々ひそひそ声が鉄筋コンクリート製の校舎に少し響く程度で、それが彼にとってみれば少し違和感を覚えた。中ニの始業式の時は、こんなぴりぴりとした空気じゃなかったはずだ。きっと受験シーズンに入ったからだろう。彼はそう解釈した。
 もう自分たちの新しいクラスルームに数メートルもないところで、後方の列から女子生徒の悲鳴が、廊下に響いた。と、同時に後ろから男子生徒がそんなに速くないペースで綱木タチの列をかき分けて、廊下をタッタと走り、他のクラスルームに入ってしまった。綱木は何事かと後方の列を見た。1人の女子生徒が、スカートを吊り降ろされて、失意でしゃがみ込んでいた。
(気の毒に)
 タチの悪い悪戯だと彼は思った。しかし問題はその後だった。
 さっきのひそひそ声がかすかな笑い声と共に、響かない程度に女子に伝播し始めた。男子は、彼女を無視して前に進もうとする。まるで、それが全体の意思であるかというように。彼は疑問に思った。新学期に入ってクラス替えもしているはずなのだが、なぜだか、彼には彼女を直接知らない人までもが、笑ったり、無視したりしている気がした。
 彼はぞっとしたが、なにもできなかった。集団の悪意が、廊下の冷えた空気に花粉のように広がっていた。

「広子!」

 違う女子生徒の鋭い声が聞こえた。

「玲子・・・怖いよ」

「大丈夫だから、ね」

 結局、広子と呼ばれた女子生徒は、寄り添ってきた女子生徒に連れられ、スカート履き直して泣きながらクラスルームに向かった。
始業式の一時限目を終えて、二時限目。担任の男性教諭が、全体に先ほどの件で注意を促した後、自己紹介をすることとなった。

「綱木守です。これから一年間よろしくおねがいします」

 木の教室用椅子をずらして席を立ち、おざなりに挨拶をすませ、再び座ると、まばらな拍手が聞こえる。その後もぎぃ椅子をずらす音が聞こえ挨拶をすませ拍手が鳴るパターンが繰り返された。そしてそのリズムはとあるところで止まった。挨拶が始まらない。
 挨拶を躊躇っているのは先ほどのスカートを降ろされた女子生徒だった。何かに怯えているように席から立とうとしない。
 彼は首だけそちらに向いて挨拶を待っていた。ああ、さっきの広子とかいう女子生徒かと思うと、彼は首を戻した。見つめる視線が増えるだけ、怯えてしまうと思ったからだった。さっきの玲子と呼ばれた子とも離れていて、孤立無援だ。周りからはくすくすと遠巻きにまた見えない悪意が渦巻いている。

「柳川さん?」

 男性教諭の担任が尋ねてきた。無神経な女性教諭に無理に促される形で、柳川と言われた女子生徒は声を小さく呟いた。

「・・・柳川・・・広子です。一年間、仲良く、してください」

 とぎれとぎれに呟いた言葉に対し、拍手は、先ほど玲子と呼ばれた女子以外からは出なかった。立っただけでさらし者のような扱いを受けていた。
 一方で、彼は彼女の名前に聞き覚えがあった。というよりもこの学校で余程勉強に興味がない生徒以外誰もが知っているはずだった。何故ならば彼女は、この中学に入り常に学年一位の成績を保ち続けてきた優等生だからだ。なるほど、嫉妬の対象になって虐められているのかと彼は考えた。しかしそう考えただけで、彼は別に助けてやろうという気になったわけでもなく、寧ろ無関心で、顎に肘をついていた。

(俺が何かしたところで、変わるわけがない)

 それが、彼の持論だった。彼女の自己紹介は多数の嘲笑と一人の拍手だけで終わり、二時限目が終わった。
作品名:自分嫌い同盟 作家名:夢見 多人