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ただ書く人
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熟年法事件

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 首相がホテルで外国の大使との会談を終えると、出入口付近で十人前後の報道関係者が彼を取り囲んだ。昔はこうして記者たちに囲まれることも好きではなかったが、あの老人たちに比べれば楽なものだ。先ほどの老人たちを思い出し、首相は軽く微笑んだ。
 そして、記者たちの質問に応じて会談の内容を簡単に話そうとした時、首相の背後から突如大きな声が上がった。それを聞いて首相が振り返ると、そこでひとりの老人が叫んでいた。老人はホテルの宿泊者のようにも見えた。
「金を返せ。おまえはこんな場所で飯を食いやがって。おれらの金だ。責任を取って死ね」と叫んでから老人は懐中から短刀を取り出して鞘を投げ捨てた。
危険を察知してすぐに数名の警護官が取り押さえに向かったが、どこからか二十名余りの老人たちが躍り出て警護官たちに飛びついた。その隙に短刀を持った老人は一直線に首相に向かった。
 首相は、殺されてもいいか、と諦観し、老人を、そしてその手に持つ短刀を見つめて微動だにしなかった。
 警護官に飛びついた老人たちが「天誅だ」「泥棒め」「万歳」と口々に叫ぶ。警護官や記者たちも「ふざけるな」「何をしている」「取り押さえろ」と声を荒げる。短刀を持った老人が首相の眼前に迫る。そして、諦めたはずの首相の体が今さらになって老人を避けようと動き出す。
 しかしその回避は間に合わないかと思えた瞬間、首相のそばにいた秘書官が、短刀を持った老人の体に体当たりをして吹き飛ばした。そのまま秘書官と老人は倒れこみ、短刀が首相の足元に転がった。記者たちから歓声と拍手が上がる。
 首相は短刀を拾って、今は警護官に押さえつけられている老人たちに向かって数歩近づいた。そして突如叫び始めた。

おれが死ねばいいのか。
おれが死ねば満足か。
おれが死ねば来ないのか。
おれが死ねば黙るのか。
おれが死ねば電話もしないか。
おれが死ねばそれでいいんだな。
二度と来るな。
何も言うな。
何もするな。
死んでやるからもう黙れ。

 首相は両手で握った短刀を強く首に当て、躊躇なく腕を引いた。
作品名:熟年法事件 作家名:ただ書く人