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 夜が更けても神田の甚兵衛長屋の一間からは明かりが漏れている。周囲は宵闇に包まれているので、その明かりは一際目立つ。ここはいわゆる「貧乏長屋」で、後家や食い詰め浪人の巣窟であった。それでも長屋が成り立っているのは、一重に大家の寛大な性格と、義理人情で世の中が成り立っていた時代背景があったと言ってもよいだろう。
 この時、既に時刻は丑の刻を回っていた。さすがに食い詰めた傘張り浪人も床に着いている時刻だ。それでは明かりの漏れている間では何をしているのであろうか。

「先生、もう一杯どうですか」
「うむ」
 女が浪人に一升樽の酒を勧める。浪人はそれを色気のない茶碗で受け取った。注がれた酒に映る己の顔をまじまじと見つめる。そこに女の艶やかな顔が重なった。
「西村先生のような方に世直しをしていただかないと、ご政道がどうにかなっちまいますよ」
「常日頃から、それがしもそう思っておる。しかし、同志の士気が足らぬ」
「西村先生はやる気十分でございますのね」
「そうとも、おこう殿。だが、時期を待ち、入念に計画を練らねばならぬ。由井正雪殿ほどのお人でもしくじられたのだ」 
 西村と呼ばれた浪人が宙を仰ぎ見ると、力強い瞳で頷いた。それをおこうという女は微笑ましく眺めている。
「ご政道が間違っていなかったら、私のお父つぁんだって」
「おこう殿の父上は無実の罪を着せられたのでしたな」
「そうです。抜け荷の罪を着せられて。お願いです。恨みを、恨みを晴らしてくださいまし!」
 おこうが西村に抱き着いた。西村は決して痩せこけた浪人ではなかったが、おこうの体重でよろけ、床へと二人でもつれた形となる。茶碗が転がり、こぼれた酒が安普請の床に呑み込まれていった。

 布団など必要はなかった。食い詰め浪人は明日の食料にも飢えている。だが、所帯持ちでない限り、女にもまた飢えているのだ。
 西村はおこうの帯を解きにかかった。おこうは無論抵抗せぬ。それどころか、自ら腰を浮かせ着物を帯を解こうとしているではないか。
「先生も女の身体は久しぶりなんでございましょう」
「ああ、おこう殿」
 西村は明かりを消すことも忘れ、おこうに組みついていた。おこうは着物をはだけ、豊かな乳房を露にしている。西村は取り憑かれたように、その頂点に震える蕾を貪った。その様をおこうは慈悲深い眼差しで見つめている。
作品名: 作家名:栗原 峰幸