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フォーゲットミーナット ブルー【第3話】

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【第3話】

時計の針はちょうど、午後11時を過ぎたところだった。
結衣のいない部屋で一人、私は友人と電話で話しをしていた。

『またやっちゃった』
『どうしてもやめられないんだよね……』
「そう。ちゃんと消毒したの?」
『ううん。血を見ると落ち着くから……勝手に止まるまで放ってる』

リストカット……電話の相手である友人の美沙は、自傷行為を止められないでいる。
全然かまってくれない彼氏に対しての不満を、自分にぶつけてるのだ。
何度もその男と別れろと言っているのだけど、美沙は「優しいところもある」と言って、なかなか離れようとしない。

『結衣の好きな人って、なにやってる人なの?』
「親が金持ちだからニート」
『なにそれー。羨ましい! てか、将来玉の輿?』
「別に付き合ってもいないし」
『でも、一緒に住んでるんでしょ? Hぐらいはしたんでしょ?』
「してない」
『マジで? なんか、変わった関係だよねー』

変わった関係、か……。
私は他人に“女の子に恋をしてる”と打ち明けたことはない。
こんな気持ち知られたら、絶対気持ち悪いって思われるもの。

『変わった関係だけど、ある意味理想的?』
「…どこが?」
『Hも無しで、仲良く暮らせる異性のパートナーなんて理想的でしょ』

……返す言葉が見つからない。
理想的? 美沙は呑気なことを言う。週末の夜、こんなにも苦しくて寂しい思いをしているのに。
だからと言って、真実を明かす勇気はない。
私が結衣に恋心を抱いているなんて、そんなこと………。

「ごめん、ちょっと眠くなってきたから」
『あ……うん、分かった。今度遊ぼうね! 絶対』
「うん。また連絡する」

私は電話を切ると、チューハイの缶に手を伸ばした。
美沙は自分の体を傷つけることで、気を紛らわしている。私はアルコールで寂しさを紛らわす。
ねぇ、美沙。私の恋はとても困難なんだよ……?
いくら相手を想っても、叶うことなんてないんだよ?
視界がぼやけ、涙がツーッと頬を伝う。

「もうやだ……帰ってきて、結衣……」

私はぼんやりと、結衣との出会いを思い返していた。
ドラッグストアで出会わなかったら、私はこんなに苦しい思いをしなくて済んだはず。
もしかしたら、異性と付き合うこともできたかもしれない。
いつも思う。このやり場のない感情を、どこにぶつけたらいいって……。

「結衣……結衣………」

私はクッションに顔を埋めた。いまごろ結衣は、恋人の功一君と……。

「やだ。やだよ……」

考えたくなくても、考えてしまう。この負のループから、いつになったら解放されるんだろう。私はポケットに入れているピルケースを取り出し、頓服を何錠も口に放り込む。
30分くらいしたら、自然と眠りに落ちるだろう……。それまでの辛抱だ。
いまだ流れ落ちる涙。結衣と出会う前は、涙なんて流すことはなかった。
結衣と出会ってから、私は小さな子供のように弱くなってしまったんだ………。


【つづく】