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おやまのポンポコリン
おやまのポンポコリン
novelistID. 129
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おせっかいな声

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   【 おせっかいな声 】

「タバコの煙が感知されました。健康の為、吸いすぎに注意しましょう」
「お部屋の温度が上がっています。節電の為、エアコン・暖房の設定温度は低くしましょう」
「テレビを長時間お使いにならない時は、プラグをコンセントから抜き取りましょう」

 昼のティータイム、ゆっくりコーヒーでも飲もうとしていたわしをイラつかせる声がした。
 
「うるさーい! わしの体だ、病気になろうとお前らの知ったことじゃない。それに自慢じゃないが、この田畠孝三郎・七五歳、生涯で一度も車を買った事がないし、海外旅行にだって出かけた事もない。CO2削減に関して、とやかく言われる筋合いもないわ!」
 なんとなく怒鳴りながら、バカバカしくなってきた。

「電化製品に、怒っても仕方ないわな」
 わしは苦笑しながらコーヒーを飲んだ。

 自分自身の怒鳴り声を聞くのは何年ぶりだろう。
 それどころか一人暮らしで年金生活者となった今、言葉を発する機会も少なくなった。

「確か一週間程前に、コンビニでマイルドセブン三箱と言って以来だな・・・」
 わしはポツンと呟いた。

 玄関がオートロックのこの賃貸しマンションに越してきて以来、新聞の勧誘すら来なくなった。
 どうやらわしは、社会と隔絶された存在になったようだ。

「それもいいか・・・」と、一人納得しかけた時にまたおっせかいな声がした。

「昼間は電灯の明かりを消しましょう」
 感知センサー付きのシーリングライトだった。

 この頃の電化製品は殆どがしゃべるのだ。
 それを便利だと言う人もいるが、必要もないのにしゃべられると腹が立つ。
 音声を消せるように設定できるそうだが、それぞれの電化製品に付いている分厚いマニュアルは、さっぱり要領を得なかった。

「こうなったら、どいつもこいつもしゃべれないようにしてくれる」
 わしは先程イラつかせてくれたシーリングライトを睨みつけた。

 玄関脇の下駄箱に放りこんだまま、ここ一年は使っていない道具入れの中からペンチを取り出すと、テーブルをライトの下に移動して、オペに取りかかった。

「こんなものは大抵、センサー脇のスピーカーさえ取ってしまえば静かになるってもんだ」
 
 わしはライトのカバーを外し、そこにあった小さなスピーカーをペンチで壊しにかかった。
 
 と、その時だった。
 ここしばらく鳴りを潜めていた地震が起こったのだ。

「ウワーッ」
 揺れは軽かったが、わしはバランスを失い、テーブルから転落。
 その場に倒れ込んでしまった。
 立ちあがろうにも足が動かず、落ちた時にテーブルの角で胸をぶつけて声も出ない。
 なんとか腕だけは動かせたので玄関まで這って行き、救助を求めて部屋の中からノックした。

 だが、そんな音に気付いてくれる者などいるわけもなかった。
 まさしく都会の中での遭難だった。

 もしかするとわしはこのまま死んでいくのか?
 脳裏に一人暮らしの老人が死後数カ月たって発見される光景が浮かんだ。

 まあ、休んでいれば回復するかもしれん。
 幸い暖房も効いていて寒くはなかったので、わしは玄関付近でひと休みする事にした。

 が、電化製品達はわしを静かに休ませてはくれなかった。

「パソコンを長時間お使いになる時は、目が疲れますので少し休みましょう」
「赤外線コタツは消し忘れに注意。またお使いになる時は低温やけどに気をつけて下さい」

 いつもなら即スイッチを切るのだが、今日はそこまでたどり着けなかった。
 それをいいことにしゃべる電化製品達は一斉にごたらくを並べはじめたのだ。

「フィルターが汚れています。掃除をお願いします」
「プリンターのインクが残り少なくなってまいりました。早めの交換をお願いします」
「まもなく 演歌 の 花道 が始まります。録画予約される場合は・・・」

「ああー、うるさい」
 わしは一切聞こえないものとして無視することにした。

 すると電化製品達は主(あるじ)がいつまでもスイッチを切らない為に耳が遠い人と判断したのか、しだいに音量を上げ始め、最大限のボリュームでメッセージを流し始めたではないか。

「洗濯が終わりました衣類をそのまま放置しますと、しわになるだけでなくカビや細菌が付く恐れがあります。すみやかに洗濯機から取り出して下さい」
「レコーダーのハードディスク容量がいっぱいになってきました。ブルーレイディスクまたはDVDへダビングをお願いします」
「冷蔵庫が少し開いていませんか。電気の無駄が生じるだけでなく食中毒の原因にもなりますので、閉め忘れにご注意下さい」
「ポットのお湯が少なくなっています。ただちにお湯を補給してください」
「空気が澱(よど)んでいるようです。換気を・・・」

 誰でもいい、早くこいつらを止めてくれ! 
 わしが心の中で叫んだ時、管理人が部屋を開けて入って来た。

「大丈夫ですか田畠さん」
 管理人はすぐに倒れているわしの為に救急車を呼んでくれた。

 どうやら、先程わしの出したSOS(ノックの音)を、どなたかが聞きつけて管理人をよこしてくれたようだ。都会は人と人のつながりが希薄だと言うが、捨てたもんじゃない。

 などと、感心していると・・・

「いえね。田畠さんの部屋がうるさいから注意してくれと、あちこちからクレームが入ったんですよ」
 と、管理人が笑った。

 まあ、どうせそんなこったろう。
 わしは妙に納得がいった。
 
     ( おしまい )