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ジェストーナ
ジェストーナ
novelistID. 25425
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好きして! sister&darling

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  「ここに、この公式を当てはめて……」
  黒板に白のチョークで文字が書き連ねられていく。それを機械的にノートに写し取る。やたらと大きい声の教師の話を聞きながら、彩はぼんやりと斜め前の結依の後ろ姿を眺めていた。
  (それにしてもアイツ、あたしがラブレターのことで一瞬ヘコんだの、なんで見抜けるんだか)
  結依。可愛らしい双子の妹。
  結依や他の友達、家族などでの前では滅多に言わないが、彩は結依のことを自慢に思っていた。
  結依は誰にも負けないほど可愛いし、気立てもいい。そんな妹を持ったこと、その妹が自分を慕ってくること、すべてが彩に優越感を与えた。ささやかな優越感は彩に余裕を与え、そうしてこの姉妹の仲は保たれてきたのだ。
  だが、その微妙なバランスに翳りが見え始めている。
  彩はつっと視線を移動させて、結依の右に二個ほど隣にいった席に座っている少年を見た。少年は頬杖をついて片足を小刻みに動かしながら黒板を見ている。耳には大きなヘッドフォンがついているからきっと音楽を聴いているのだろう、彼の表情は退屈しているようには見えず、安らかだった。彩はそんな彼の横顔に恋をしたのだ。
  双子の姉妹に降りかかった問題とは、すばり彩の恋だった。
  ヘッドフォンをした少年――――田原篤志に彩が恋をしたのは、二年になってクラス替えをして、本格的な授業を始めた日のことだ。寝ていたり音楽を聴いている人は多かったものの、彼だけが彩の目を引いた。彼の子供っぽい無邪気な横顔に、なぜかひどく保護欲をそそられた。そして、数秒遅れて彼が好きだと思ったのだ。ほとんど一目惚れの極地だった。
  それだけならば変哲もない普通の恋として終わったのかもしれない。だが、篤志は彩が彼を好きだと自覚したその日に聞いてきたのだ。「菅野結依は妹なの?」「彼女のことをいろいろ教えて欲しい」と。
  (……何よりタチが悪いのはユイが無自覚だってことよっ)
  イライラしてシャーペンをトントン机にぶつける。
  なんせ結依は重度のシスコンなのだ。素面で「お姉ちゃん大好き!」と言ってのける。そう言ってくれることが何より嬉しかったはずなのに、今は結依がたまらなく憎らしい。
 彩が欲しいものを全部持っているくせに、あくまで純粋に姉を慕う。そうして純粋に姉を慕う結依を憎む、自分が憎い。嫌悪感の連鎖だった。
  彩は溜め息をついて、随分と先に進んでしまった黒板の内容をノートに書き写すことを諦めた。後で結依に見せてもらえばいい。双子が同じクラスにいることの、これだけが今も変わらない利点だった。

  「ねーえ、お姉ちゃん。さっきユイのこと見てたでしょ?」
  「……見てたよ」
  なんて鋭いヤツだと心の中で悪態をつきながら、彩はそれを肯定した。
  「なんで?」
  「今日の髪型すごく可愛いなって思って」
  うまい言い訳が思い浮かばず、咄嗟にこんな嘘をつく。勘はいいくせにどこか天然な結依はそれで納得したらしく、花が綻ぶように笑った。
  「えへへっ。今日ね、お姉ちゃんに褒めてもらおうと思って頑張ったんだぁ」
  「可愛いよ。すごく」
  「うんっ!」
  結依は心底嬉しそうに笑った。色恋沙汰には縁のない無垢な笑顔。それが彩にはたまらなく羨ましくて、どうにかなってしまいそうだった。
  悩む彩をよそに誰かが言った。
  「それにしても、ユイの関心はお姉ちゃんにしかないのね」
  「うん。だってユイはお姉ちゃんが一番好きだもん」
  呆れたようなクラスメートの発言にも、きっぱりと即答する結依。
  「ちょっとは気になる人いないの? 例えば、うちのクラスの田原くんとか」
  瞬間どきりと鼓動が強く鳴った。彩は内心の動揺を見せないように(勘のいい妹に悟られないように!)、意地の悪いにやにや笑いを浮かべて、結依を肘でつついた。
  「ちょっとカッコいいよね。どうユイ? 気になる?」
  「う〜ん……確かにカッコいいけど、ユイはお姉ちゃんのほうが好き」
  「またお姉ちゃんって。あんたアヤのどこが好きなのよ。いつ好きになったの?」
  「あ、それ私も聞きたかったー」
  好奇心いっぱいの目に晒されて、結依は少しむっとしたようだったが、それでもきっぱり言い切ってみせた。
  「ユイはお姉ちゃんの全部が好きだもん。ほら、ドラマとかであるでしょ、出会ったとき
 から好きだったって。ユイは、お母さんのお腹の中にいたときから、お姉ちゃんのことが好きだったの!」
  「うわおー言い切ったよコイツ!」
  「シスコンもここまでくると偉大だね!」
  クラスメートがはやし立てて拍手まですると、ちょっと離れたところで様子を窺っていた男子の何人かがやって来る。
  「なーなー菅野さん、そんなにお姉ちゃんがいいの?」
  「うん。ユイはお姉ちゃんのお嫁さんになるのっ」
  「あたしもおまえも女でしょーが。いや、それより前に実の姉妹だ思い出せ」
  「うっ……それでもいいの。心意気でなんとかするの!」
  彩に抱きついた結依の大きな目が涙で潤む。それを見た彩は頭ひとつ分小さい結依の頭を撫で、ついでにつむじを押した。
  「はいはい。ユイちゃんがお嫁に行くときは死ぬ気で泣いてあげるからねー」
  「ユイはお嫁なんて行かないっ。お姉ちゃんとずっといるのーっ」
  「じゃあさユイちゃん、篤志とかは?」
  「ばっ、馬鹿!」
  真っ赤になって怒鳴る篤志に、彩の胸がずきりと痛んだ。抱きついていた結依が姉の変化を敏感に感じ取ってきょとんとした顔で彩を見上げたが、すぐふいと視線を逸らし、篤志を見つめたが、またぱふっと彩の胸に顔をうずめてしまう。
  「……やっぱりお姉ちゃんがいい。ごめんなさい、田原くん」
  「あ、篤志で構わないよ」
  「そう? じゃあ篤志くん。ごめんなさい」
  「謝らなくてもいいよ。元はといえば変な質問したコイツが悪いんだし」
  「あー、ユイちゃんごめんな。気にしないでくれな」
  「うん、ユイは大丈夫」
  にっこり笑う結依に、彩は視線を感じた。周囲を見渡してみれば、クラス中がこちらを見ていた。それほど結依の笑顔は魅力的なのかと思うと、今だけは誇りよりも負の感情が舞い降りた。すると、男子からは感じない負の感情が特にこもった視線を女子たちから感じた。咄嗟に彩はそちらを見た。
  「ああいうの、マジうざくなーい?」
  「本当。男に媚びてるって感じ」
  「カマトトぶってんじゃねーよっての」
  わざと聞こえるような声。姉以外のことに無頓着な結依はもちろん気付いていないが。彩は肩をすくめて言った。
  「ごめんな。あたしの妹が迷惑かけて」
  「っ……」
  そう声をかければさすがの結依も気付いたらしい。即座に事の成り行きを理解して、ぎゅうっと彩に抱きついた。
  「お姉ちゃん、ありがと! 大好き!」
  ――――ああ、この笑顔があるから姉は止められないのだと、ふと思った。