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茶房 クロッカス 番外編

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『茶房 クロッカス』
 ついつい読みふけり、気が付くとあっという間に時間が経っていた。
 本屋でそのタイトルの本を目にしたあの時、俺はマジ驚いた。
「俺の店と同じ名前の本があるなんて……!」
 早速手に取り、中をペラペラッと捲〔めく〕ると主人公の名前は前田悟郎。
「えっ! これって俺じゃん!!」
 信じられない思いで一旦本を棚に戻したものの、やはり気になって再度手に取り、そしてそのままレジへ向かった。

 その本を買って店に戻ると、早速午後のゆったりタイムに読み始めた。
 その中では主人公の俺〔?〕が、店にやってくる色んなお客さんと接する内に人と人との触れ合いの大切さを知り、人間的に成長していくという内容で、妙にシャイで涙もろく、時々妄想癖もある俺が、最後には長年思い続けていた彼女「優子」と出会い、幸せな結婚をするというものだった。

 それまでの過程が結構長くて、一体いつになったら「優子」と出会えるんだ? と、じれったくなったりもした。

「どう考えても、実際の俺の店がモデルとしか思えないようなこの本。一体誰が書いたんだろう?」
 そう思って、読みかけの本にしおりを挟んで著者名を確認した。
『笹沢 四方山』 ―ささざわよもやま―と読むらしい。
 何ともふざけたような名前だ。
 一体この人は誰だろう?
 いずれにしても、俺の店の常連さんの一人に違いない。そう思って、俺は常連さんの顔を次々と思い浮かべた。

 重さん――まさかな、彼にそんな文才があるとは思えない。
 彼はあの後、離婚が正式に成立した夏季さんと夫婦になり、二人で幸せに暮らしているし、仕事も取り合えず続いているようだ。たまにしか店には来なくなったけど、心の絆は繋がったままだ。俺はそう信じている。
 
 淳ちゃん――花屋は相変わらず忙しいみたいだし、生まれた女の子――華〔はな〕ちゃん――がもうすぐ幼稚園の年長さんだ。淳ちゃんもずいぶん父親らしくなったよなぁ。礼子さんは子育てとお店との両方で大変そうだけど、今でもちゃんとうちの店の花の面倒もみてくれている。二人にそんな小説を書いてる時間なんてないよなぁ。

 元々小説を書いていたみのさんやなおごんさんなら可能性もあるか……。
 しかし、みのさんは本格的に小説を職業として書き始めてるらしいから、俺のことなんて書いてる暇なんてあるわけないし。かといってなおごんさんは、そんなにしょっちゅう店に来る訳でもないから、こんな本を書くなんて無理だよなぁ。

 あの人かこの人かと色々考えてみた。しかし、それらしい人間は思いつかない。
「うーーん、誰なんだろう?」
 ほとんど毎日のように来てくれる常連さんもいたが、どの人も小説を書きそうには見えなかった。