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2.ふけさん



オーディション会場には十人ほどのスタッフらしき大人達と、おそらくオーディションを受けに来たであろう若い二十人ほどの少女達がいた。

「次、エントリーナンバー十二番の子」

「栗山カエデ、18歳です。よろしくお願いします!」

「君はどんなアイドルになりたいの?」

「はい! 私は歌やダンスのレッスンをがんばって、一生懸命努力して、歌って踊れる一流アイドルになりたいです!」

「へぇー、そう。じゃあ、今までどんな努力をしてきたの?」

「はい、アイドルになるために、毎日四時間のダンスや歌のレッスンをしてきました」

 どうやら審査の真っ最中らしく、まだ垢抜けていないアイドルの卵が必死になって自己主張をしていた。


「おせーよおまえ!」
「すいません」

 私のことを案内してくれた若い男性が、おそらくこの中で一番偉いと思われるハゲ頭の男性のもとへと向かい、何やら話し始めた。

「……で、ちゃんと準備できたのか?」

「いえ、すいません。まだです」

「はぁ? お前なめてんの?」

 ハゲさんは相当イラついているらしく、言葉の抑揚が暴力的だった。ハゲさんのイラついた雰囲気が狭い会場に充満していて、幼いアイドルの卵達はとても息苦しそうだった。かわいそうに。

「それが、社長が来たので、それどころじゃなかったんです」
「え!? 社長? うそ? どこにいるの?」

 ハゲさんはしきりにキョロキョロしていた。……マズイ、さすがにハゲさんくらい偉い人であれば本当の社長の顔ぐらい知っているだろう。ばれる前に逃げようか……。私がそんなことを考えていると

「あちらです」

と、案内してくれた若い男性に指を刺された。マズイ、非常にマズイ……。

「そうです。私が社長です。オーディションは順調ですか?」

 思わず、そんな言葉が口から出てきた。

「…………」

 ハゲさんが黙り込んだ。私のことを疑っているのだろうか? くそ、万事休すか……。私がまた警察の厄介になる覚悟を決めたとき、ハゲさんが勢いよく近づいてきた。

「いやー、社長お久しぶりです! どうです? 今夜あたりまた呑みに行きましょうよ」

 ……おい! ハゲさん、あんたそれでいいのか!?

「そうしたいのはやまやまなんだけどね、もう帰らなくちゃいけないんだ」

 私は自分がニセ社長であることがばれる前に退散しようと思い、話を早く切り上げようとした。四,五回警察のご厄介になった経験で学んだことは『深追いをしない』『腹八分目でやめる』ということだ。そう思った私が、帰ろうと方向転換をしようとしたとき、

「そうだ、社長から一言お願いしますよ」

 とハゲさんに言われ、手を引かれ、まだあどけないアイドルの卵達の前に立たされ、スピーチをする羽目になった。


 もう一度確認しておきますが、私は今年で二十八歳になる、少し老けた顔をした、ただの公務員です。全くの部外者です。

 さて、何を言おうか……。私は黙ったままでは怪しまれると思い、苦心しながらも言葉を捜し、口を開いた。