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てっしゅう
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「仮面の町」 第三話

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第三話

東京のような立派なデパートはなかったが県庁所在地である隣町の駅前には丸越デパートが戦後直ぐに出来て繁盛していた。弘一は優子に案内されながら貴金属売り場でその品物を初めて見た。

「いらっしゃいませ!」店員の声に優子はティファニーを指差して見せてもらった。
「こちらでございますね。大変人気がございます。どうぞ手にとってご覧下さい」勧められるようにして手にとって見た。
「ねえ、弘一さん素敵でしょう?似合ってる?」
「うん、優子さんは可愛いからとっても似合うよ・・・いくらするの」
「そちらの商品はシルバーですので2万五千円です。こちらにプラチナのチェーンのものがございます。少々値が張りますが長くご愛用して頂けますのでお奨めさせていただいておりますが・・・いかがでしょう?」
弘一は値段を見てちょっと考えた。倍以上したからだ。

優子は別に安い方で構わないと言ったが、財布にあったお金を勘定して思い切って高い方をプレゼントした。帰り道優子はそっと弘一の手を握った。

「こうしていたい・・・弘一は?」
「ボクもだよ。ずっとこうしていたい」
「ほんと?」
「本当だよ」

恋愛経験のなかった弘一は胸がときめくと言う想いに強く支配された。優子は何人かと恋愛らしいものは経験していたが、初めて好きという感情を強く弘一に感じ始めていた。

「今日は本当にありがとう。今度お礼をするね」
「いいよ、礼だなんて・・・それより明日の夕方表で待っているから忘れないで来てね」
「そうだったわね。解ったわ、じゃあ明日」
「じゃあ・・・バイバイ」

駅で別れた優子は家に帰ってから父親に弘一が見た事故の話をした。一通り聞いてから、何かを感じたように呟き始めた。

「優子、弘一くんが見たという事故はひょっとして久能不動産の関係者だったんじゃないのか?だとしたら警察も手出し出来ないと考えられるからな」
「久能不動産の社長と運転手って言うこと?」
「社長かどうかわからないけど、口封じが出来るのは社長一族ぐらいだからな」
「そうだとしたら・・・弘一が首を突っ込むのは危険なことよね?」
「多分そうだろうな。奴らは奢っているから何をするかわからない。お前からよく言い聞かせて止めさせるんだよ」
「そうね、相手が悪いものね。でも、お父さん、悔しくない?ずっと久能の我儘が通っていること・・・」
「優子、お前いつからそんな事考えていたんだ?」
「いつからって・・・この町の人はみんなそう思っているわよ。そんな事知っているでしょ、お父さんだって」
「境川が発展しているのは久能家の事業のお陰だ。雇用だって系列会社を含めたら町の半分ぐらいになる事は知っているだろう?」
「もちろんよ。私だって勤めている会社の専務は久能家の娘なんだから、いやと言うほど聞かされているわ。でも決してみんないい事を言わないのは何故?それほど町に貢献しているのなら感謝こそされ嫌われるような事はないって思うけど、お父さんはどう思っているの?」
「お前に聞かされるまでもなくそんな事は知っているよ。先代の義一郎さんはとにかく一生懸命に事業を発展させてきた功労者だよ。
それはみんな認めているからね。その築き上げた財産と地位の上に胡坐をかいて偉そうに振舞っている肇と史郎、それに千恵子は確かに良いようには言われていないな・・・利害が結びついている政治家や役所、そして警察まで味方につけているからな。事故の件は可哀そうだが仕方ないよ。お前や弘一くんに縁のない若者だったんだろう?被害者は。だったら調べる必要なんかないじゃないか」
「お父さん!そんないい方して・・・見損なったわ。正義って何?久能が死ねって言ったら、解りましたって死ぬの?」
「なんだその言い方は!久能が普通の奴らじゃ無いって思うから心配してそう言っているんだ。解らないのか?」
「心配は自分にしているんじゃないの?」
「優子!二度と言わせるな!首を突っ込むことは止めろよ。せめてお前だけでも止めろ」
「後悔なんてしないわ・・・この時代に警察もぐるになって私達を抹殺しようとは考えられないから・・・反社会的な行為があったら新聞社とか県の役人に直訴するわ。絶対にもみ消される事は納得出来ないし、することじゃない」
「お父さんがどこに勤めているのか知っているだろう?クビにさせたいのか?お前達の生活はどうなる?お母さんも賛成はしないぞ」
「そんなに迷惑に思うなら・・・家を出てゆくから、心配しないで。もう子供じゃないから」
「そんな事はさせないぞ。一人でなんか暮らしてゆけるものか、世の中それほど甘くないぞ」
「そうかしら・・・ここで働けなくなっても隣町か東京に行けばいくらでも仕事があるし、生活も出来るわ」
「そんなに言うなら、出て行け。お父さんはもうお前の面倒は見ないからそのつもりで居ろ」
「お父さんは何を守ろうとしているの?高木家?自分の地位?名誉?そんなもの家族や命より大切なの?」

娘に言われるまでも無く自分が情けないことぐらい知り過ぎていた。それも全て家族のためだと我慢して暮らしてきた。父親もそうだったように自分もそうせざるを得ない生き方を選択したことが悔しいと誰よりも思っていた。

月曜日の朝いつものように出勤する優子が大きなバッグを手に持っていたので不思議に感じて母親は尋ねた。

「優子、どこへ行くの?そんな大きなバッグ持って」
「お母さん、言ってなかったね。ゴメンなさい・・・昨日父に出て行けって言われたから、そうするの。心配しないで、住む当てはあるから。お母さんにはちゃんと教えるから待ってて、お願い」
「そんな事許しませんよ!康夫さんがそう言っても私はイヤですからね・・・カバン置いてゆきなさい」
「一家の主にそう言われたのよ、お母さんが反対しても出てゆくから・・・父が謝らない限り戻っては来ないから」
「そこまでの喧嘩したの?教えて」
「時間が無いから詳しくは言えないけど・・・父の考え方を非難したから怒ったんだと思うわ。帰ってきたら聞いて・・・もう行かないと遅刻するから」

母親は呆然と優子が出てゆくのを見送るしかなかった。夫と何があったのか詳しく聞かないと絶対に納得できないと思った。
夕方になって退社する時刻が近づき優子は大きなバッグを持って玄関先に来た。ちょうど帰る専務とすれ違った。

「高木さん、どうしたの?そんなバッグ持って」
「専務・・・訳がありまして、ご心配には及びませんから」
「心配には及ばないって・・・家出でもして来たみたいじゃないの」
「実はそうでして・・・」
「まあ!ダメですよ。私が付き合ってあげるからご両親に謝って家に戻りなさい」
「今日は帰りません。意地もありますから・・・その時はお願いします。では約束がありますので・・・」
「高木さん!仕事は休んではいけませんよ。解ってるわね?」
「はい、それはしません」

弘一が来た。

「どうしたんだ?そんなバッグ持って」
「ねえ訳は後で話すからこのバッグを弘一のアパートに置かせて」
「ボクの部屋に?どういうこと」
「今日だけでいいの・・・泊めて。警察には付き合うから」
「泊めて?僕の部屋に?・・・優子さん許してくれるのですか?」