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失態失明

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      *

 ほんの少しだけ渦を巻いた風に、三枚ほどの木の葉が嬉々として、巻き上げられようかと反応した。
「なんなんだ……? 一体どうなったんだ? 俺、死んでないよな……? 生きてるよな?」
 だが渦巻くのをやめた風はそのまま跡形もなく消滅し、踊らされただけに終わった木の葉は何やら欲求不満を感じているらしい。
「心臓は……、動いてる。肌の温もり……、柔らかさも。完全に生きてるじゃねぇか……」
 その傍で、鬱蒼と生い茂る木々の間をすり抜けていく風達は、無人のサーキットで自由にマシンを乗り回すレーサーのように悠々と、そして技巧をふんだんに披露している。 
「なのになんで何も見えないんだ……? さっきは全然明るかったじゃねぇか? 気でも失って、その間に夜になっちまったっていうのか!?」
 サナギから脱皮しようとしている者もいる。ヒクヒクと殻を揺らし始め、ピリッと裂けたサナギの隙間から頭を出そうともがいている。 
「それでもなんなんだよ、この真っ暗な闇は? 太陽はおろか、光の筋一つ見当たらねぇぞ……。曇ってんのか? なんなんだ? なんで光がねぇんだよ! おい! おいいいいい!」
 後ろの風達は順番待ちをしているようだ。随分と穏やかで行儀が良い。空が開けたちょっとした広場の中を、競馬のパドックを回る馬のように、ゆったりとした動きでその時を待っている。
 鳥も犬も猫も虫も、木も山も風も湖も人も、見渡す限りの息吹は概ね予定通りに育んでいるようだ。
作品名:失態失明 作家名:krd.k