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D.o.A. ep.17~33

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リノンにひたすらついて行くかたちだったが、不思議なまでに、どこへ行くのか、という話題にはならなかった。
彼女の足に、迷いはない。
迷いはないから、確かな行き先があるのだろうと思う。
きっとどこまで逃げても、絶対に安全なところはない。
ならば、彼女の行き先に賭けてみるのも、悪くないかもしれない。

ロノアは、四方を海で閉ざされた島国だ。
遠くといっても、船でもないかぎり、行ける範囲はたかが知れている。
その限界は、もう迫っていた。

―――遠くに、海が見える。ロノアの東端だ。
かつて、ひとつの小さな村が存在した。
その名はラゾー。ライルとリノンの、失われた故郷。
感慨があるのか、彼女は村の入り口で、少しだけ立ち止まる。
半年も離れていないのに、人がいないだけでずいぶんとさびれてしまった。
王都からは2時間程度の比較的近距離にある。
廃村ということでオークの拠点にされていまいかと、気を配りながら入っていく。

「…う……ここ、は」
「ライ?」
かつがれているライルが、村に入ってにわかに目覚めだした。
「おろすぞ」
「ぎゃっ」
その直後、どさりと彼の体が地面に落とされる。
打ちつけた腰をさすり、わけがわからないといったふうに、うつろな目でどことないところを見る。
やがて、はっと目が醒めたように俊敏に立ち上がって、鞘からつるぎを引き抜きかまえる。
「どこだ!俺はまだ…」
戦う、とするどくさけんだ。
見ていた夢が、記憶の続きであるオークとの戦いだったのか、その殺気は尋常ではない。
辺りがしんと静寂につつまれていることに気づき、怪訝な顔できょろきょろと辺りを見回した。
「…ライ、あのね」
リノンはおずおずと切り出そうと口を開く。
「ここ…村?俺の…俺たちの、村か?」
よく見知った、しかしあまりにもさびれた風景に、ライルは確かめるように彼女をうかがう。
「戦場は…ロノアは。勝ったのか。俺は何で、ここにいる」
彼の口からら矢つぎ早に繰り出される問いに、リノンは途惑う。何からどう答えていいのかわからなかった。
そもそも途中で逃げ出したのだから、ロノアがどうなったのか、リノンも知らない。
困惑している様子にはたと我に返って、彼は頭をかく。
「あ…ごめん、でも、わけわかんなくて…」
「ううん、いいの。私が…私が勝手をとおしただけ。あんたを運んだのはティルバルトだけど、頼んだのは私」
「ティル…?」
ようやくこの場にティルもいることを認識したらしい。ティルは相変わらずの仏頂面でいる。
「よく聞いて。私たち、あの戦場から…」

「――――ッ!」

その言葉が告げられかけたと同時に、ティルの表情が激変した。
常にない取り乱し様に、逃げた云々のつづきがふきとび、二人はぎょっとする。
「…いる」
「え、な、何がだよ」
まさか魔物がか、と、ライルは再び剣をたずさえ周辺を警戒する。
ティルはたまらなくなったように早足でひとり歩きだした。
「お…おい、なんだよ」
「ちょっと、待ってよ、どこ行くのよ!」
あわててあとを追いかける。
エルフの五感や第六感は、人のものより遥かに鋭敏だ。ライルたちが感じとれない何かを、彼の感覚は察知したようだった。

「ここに…」
小さな村にあるにしては立派すぎるほどの、石造りの教会。
彼はそこで足を止める。そして、ゆっくりと扉を押していった。
ギギ、と重々しく開いた先は、薄暗い。
木の床には、掃除をおこたったためにうっすらとほこりが積もっている。
リノンがみがくことを日課としていたステンドグラスも、どこか色褪せていた。
最奥には10の―――大十術師たちの姿を模した石像が、等間隔にならぶ。
そして、その前に、誰かがしずかに、たたずんで―――笑っている。

「おかえり。 脱走兵さんたち」

「――――あ」
これは、いつかとまるで同じだ。
ちがう。いつか、などとあいまいなものではない。
忘れもしない。忘れられるわけがない。
あの惨劇の夜を。
「あ、ぁ」
この身を斬り裂いた、冷酷な痛みを。
肩までの緑色の髪、猫のような金色の眼、女と見紛う細い体―――
誰が忘れるものか。炎のような激情が、ライルの神経を焼ききらんとばかりに燃え上がる。
「テメェ―――」
手のひらにくいこむほどにこぶしをにぎりしめ、この上なき憎悪のこもった目で、その姿を射抜く。
「どのツラさげて、よくもここに……!」
奥歯をきしむようにかみしめる。
この男は、あれだけの事をこの場所でしておきながら、またもやこの場所に、なにくわぬ顔で立っている。
なんとも感じていないのだ。許せるはずがない。
今度こそ息の根を止めてやる、と剣を構えた。
しかし、一歩前に出て彼を制したティルによって阻まれる。

「…やっと、逢えた」
それは、はぐれた子供が、ようやく親とめぐりあえたような、どこか泣き出しそうな声だった。

「ずっと、ずっと…俺は、さがしていた。―――レンネルバルト、兄さん」


作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har