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D.o.A. ep.17~33

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Ep.32 終局





城下町こそ開放的なモンテクトルだが、少し離れた小高い山の頂にある王宮は違う。
いったん閉じてしまえば、めったなことでは侵入は困難だった。
華美な外観に反し、守りに関しては、なみの要塞よりすぐれた造りになっている。
ただし、外部との連絡も困難になるため、唯一設けられたのが、王国陸海軍本部の隠し通路だった。
まさか、内通者でもいたのかとソードは疑う。
機密事項である。一般の兵は無論、将官クラスでも知る者はかぎられている。

―――遠くで、悲鳴を聞いた気がした。
ソードは全速力を持って王宮へ急ぐ。
どこへ繋がっているかといえば、玉座の間の、その手前の間である。


死に物狂いで走り抜けた先は、はたして、最悪の現場だった。
抵抗した兵の死体が散乱している中、文官たちは、恐怖にひきつった表情でふるえている。
玉座の間への扉は開かれていた。
小さな階段をのぼり、入っていく。
ばかにでかい、深緑の刀剣を持った人物が、玉座の前に立っているのが見えた。
「陛下!!」
高い天井にはね返って、ソードの声の残響が、わんとひびきわたる。
玉座の傍に、アイリシャーネ姫が倒れているのを見つけ、はらわたが煮えたぎる感覚をおぼえた。
「貴様…」
ぎりっと奥歯を噛みしめて近づく。
そして振り向いたのは、赤毛の女で、ソードは少し目を見開く。
あんなばかでかい剣をあつかえるようには到底思えない。ひょっとすると、グランドブレイカーをしのぐのではないか。

「…拷問って、むずかしいわ」
女は、眉をちょっと寄せて、首をかたむける。
「どのくらいが限度なのかわからなくて。…別に殺すつもりはなかったのよ」
やってしまったことを、女は少しこまった表情で告白する。
うつくしく伸びやかな声色だ。
女はすらりと長い脚で、こつこつと床を軽く蹴って、玉座をはなれた。
――拷問?殺すつもりはなかった? なんだ、あの無残な姿は。
あの無残な姿の、主君は。
筆舌に尽くしがたい、ありとあらゆる苦痛を与えられた果てに、ロノア国王セヴァルズ=ジュラルディン=ロノアは、玉座にて息絶えていた。
「へ…陛下…」
声がふるえる。
にぎりしめた拳を以って、赤毛の女へ飛びかかる。女であろうと容赦などできるものか。
この貴き血を持った誇り高きひとに、この女はどれほど惨い真似をしたのだ―――!
女はくすりと笑った。
男を誘う売女めいて、蠱惑的で、品性のかけらもない微笑。
女はくるりと右手で巨剣をふりまわし、ソードの拳を阻む。
目の前で人差し指をふり、女は真っ赤なくちびるから歯をのぞかせた。
「そこのお姫様まだ生きてるのに、巻き込んじゃうわよ、武成王ソード」
「…っ」
アイリシャーネはまだ生きている。では彼女は、父親が拷問に苦しむところを見ていたのか。あの悲鳴は。
「やだ、やめて、お父さまにひどいことなさらないで、ですってよ。気絶するまで叫んでたわ。健気よね。
…でも、こちらの要求をはねつけて、あえて我慢を選んでたんだから、仕方ないでしょ?」
心を読んだように、アイリシャーネを眺めながら、女は目を細める。
「女、…何者だ。何が目的だ」
胃の腑が灼かれるような激情を抑えつけながら、ソードは女を睨みつける。
「女だなんて。キルフィリアよ」
「貴様の名なんぞに興味はない。何者で、何が目的だと訊いた」
ソードとキルフィリアの間をはばんでいた巨大な深緑の剣が、光とともに霧散した。
ただの武具ではないらしい。しかしそんなこと、今はどうだってよかった。
「我々は“クォード帝国”。戦争状態で、トップに何を求めにきたかなんて、言うまでもなくわかってもらいたいわ。
決断を下せるのは、こちらにいらっしゃった国王陛下か、武成王ソード、あなただけなのよ」
「クォード帝国…だと」
「さて。そろそろね」
ひらりと蝶が舞うようなかろやかさで、ソードの脇をすり抜けていった彼女は、そのままテラスの方へと歩いていく。
「ついてらして武成王ソード。ステキなショーをお見せするわ」
一体何をするつもりだと、ソードは追う前に、アイリシャーネを離れた場所へ移動させた。
真っ赤に腫れた目と、涙のあとが痛々しい。
残酷な光景を眼前で展開され、どれほどつらかっただろう。


テラスは、かつて王とアイリシャーネが、王国祭の花火を見物した特等席だ。
小高い山にあるために、かなり遠くまで見渡すことができる。
出てきたソードは、いつの間にか空の色が青に戻っていることに気づいた。
そして、ずっとむこうに、真っ白の、かがやく獣が浮かんでいる。
ちょうど、戦場になっている地域の真上だった。

「見えるかしら。あの白い獣こそ、三超獣(トライディザスター)…我らが皇帝にあらせられるイリュード様の、もうひとつのお姿よ」
「トライ…ディザスター…」
どこからわいたかは知らぬが、その獣が一体これから何をするというのだろう。

「!」
浮遊する獣のそばに、肉眼でとらえられるほどの光が集束している。
光球は、電気をまといながら、成長をつづける。
その様は、雷をたばねて織っていくようだった。
膨大なエネルギーをたくわえた光球のまえで、不意に獣は、体を大きく反らさせた。

「! や、やめ…」
「―――そのお力、とくと目に刻んで、畏れなさい」

ついに、その球体につまったエネルギーが、一直線に解放される。
エネルギー光線は、延長線上のすべてをずたずたに喰らうように抉りながら直進する。
トータス大陸の半島部のあたりまで達した瞬間、大爆発を起こした。
「ッ…!」
爆風は、こちらにまでも強く吹き荒れてきた。
目が眩むようなかがやきに、視界が真っ白に染まる。

作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har