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D.o.A. ep.17~33

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陸軍は、五つの軍をかかえている。
第一軍、第二軍、24班の属する第三軍、第四軍が、それぞれ沿岸をまもるようにちらばっていた。
第五軍を予備兵として温存し、各軍からの要請を受け次第適切に投入するのである。

おのおのの駐屯地で、交代に警戒していた彼らは、のこらずたたき起こされた。
ついに、正体不明の敵が、遠い海に姿を現したのである。
第三軍の担当区域の中にある、ティスラ港町南西のフェンは、ちょっとした林にかこまれている大きな村だ。
少しでも外に出れば、遠目ながら海をながめることができた。
海戦とは、砲撃の応酬によっておこなわれるもので、陸地まですさまじい音がとどろいてくるという。
白んできた空の下、夜明け前の冷えた空気を吸い込んだ。
「ずいぶん余裕ね、ティルちゃん」
ユーラム=オルドリーズ少佐である。
後ろから誰かが近づいてきていることはわかっていたが、声を聞くと思わず渋面になる。
ティルは、このむやみに陽気な上官を苦手としていた。
だいたい、男のくせに女をよそおうところが理解不能である。男が女の化粧をしたって、似合っていないのだから気味が悪いだけではないか。
もしや自覚がないのか。ティルはしかめ面をごまかしもせず、振り返る。
「戦場は初めてでしょ?それだけ落ち着いてるなんてたいしたものよ。常々のクールな態度は伊達じゃないわねーえ」
しかし、そこにいたのはいつものユーラムではなかった。
男の低い声で女言葉をしゃべっているという異様さをのぞけば、メイクはすっきりと落ちているし、香水のにおいもしない。
軍服とてきちんと着用しており、まともな――否、むしろちょっと騒がれそうな二枚目の軍人が、そこにはいた。
不覚ながらぽかんとしていると、
「なんなのよう、じっと見つめちゃって」
「…いや、化粧」
「さすがに戦場でしないわよ。とれてドロドロのブサイクになるに決まってるでしょ。女兵たちだって、みんなアタシといっしょのすっぴんよ。
ああー、恥ずかしいわあ、人様の前でノーメイクなんて」
あんな似合うとはおせじにもいえぬ厚化粧面をぶらさげて歩いていたほうがよほど恥ずかしいだろうと、ティルはおもった。
「ところで、あなた、軍にはどのくらいいたかしら」
「4年」
「ふうん、それだけいて、いまだに一等兵か。昇進も、拒んできたんですって?」
「責任を負いたくないだけだ」
「それを聞き入れちゃう軍も軍よねえ。あなた冷静で頭がまわるから、尉官とか佐官で参謀が適当だとおもうわ」
「…ごめんだ」
ふいっと顔をそらすティルに、ユーラムは腕をくんでしばらく思案していた。
「やっぱり、あなたみたいなのが一兵卒として捨て駒になってるのは、陸軍の大きな損失よ。紹介状書いてあげるから、陸軍学校行かない?
あそこ卒業すれば、尉官になるわ。地位って、やっぱり持っておくと便利よ」
「いらない。放っておいてくれ」
「んまー。上官の厚意を無碍にして!ホント変わった子ね!普通ならとびあがって喜ぶべきところよ!」
「………」
沈黙に徹して、わずかだが、申し訳なさを懐いた。自分にむけられる厚意が、ありがたくないわけではない。
しかしその厚意が昇進につながる以上、拒まざるをえないのだ。
ティルには戦う意思はあっても、このロノア王国を命をかけて守り通す意思までは持っていない。
昇進などして、責任を負う立場になど就くわけにはいかなかった。
資質があっても、資格がない、とおもう。そのような上官を持つ兵がかわいそうだ、とも。
この戦いにも全身全霊をささげるつもりはなかった。
最後の一兵となっても、という覚悟から、この戦場でティルほど遠い男もおるまい。
「コインはさめそうね」
「は?」
「眉間のシワ。いつも以上に、すごいわよ。 …ホントに、しょうがない子」
彼の仕方なさそうな微笑が、記憶の中の人にかさなって、ティルは己の目をうたがった。
「いくら一人の自由がすきでも、人間独りじゃ生きてけないんだからね。
あなたに広い交友関係は性格上ムリだろうから、いつかたった一人でも、信頼できる人間を見つけなさいよ」

むこうのほうで、集合を報せる合図が鳴りはじめる。
「時間ね」
もっと話したかったわ、とユーラムは肩をたたき、表情をひきしめた。
「―――気張りなさい」


作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har