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本当にあったゾッとする話2 -上野駅山手線ホームから見たもの

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私は自宅に帰ろうと、上野駅の山手線ホームで電車を待った。
やがて電車が入線して来ると、私は何気なく、電車の先頭車両を目で追った。
自分の目の前を先頭車両が通過して10メートルほど走ったとき、私は電車の進行方向に異様なものを見た。
電車の前を、一人のおばあさんが四つん這いで電車に背を向けて這っているのだ。
驚く間もなく、おばあさんの姿はすぐに電車の陰に隠れて見えなくなってしまった。
電車は車両にして数両分走ったところで、停止した。
しかしそこは、正常な停止位置ではなかった。
しかも、停止しても、ドアが開かない。
私は何が起こったのかと、先頭車両に向かって歩き出した。
あの、おばあさんのことが気になったので、電車とホームの隙間に注意を向けながら、歩いた。
平日の昼下がりでそれほど多くはないが、それでもホームには大勢の人がいる。
ホームの人々は、ごく普通に談笑し、あるいは黙ってドアが開くのを待っている。
誰も異常を感じ取っていないようだ。
今の事態に異常を感じているのは、私だけのようだ。
車両2台分ほどの距離を歩いたときに、それを見つけた。
ちょうと、車両と車両の隙間に、おばあさんがうつ伏せに倒れていた。
半分白くなった頭に短髪のちりちりパーマをかけた、70歳前後の小柄なおばあさんだった。
おばあさんと言うか、まだ少し「おばさん」の雰囲気が残ったおばあさんだった。
レールの上に斜めに覆いかぶさるように倒れ、両手を上に伸ばし、顔はやや横に向けていた。
左足は膝から下が無く、右足は膝から下がまるで編んだロープのようにねじれ、脹脛から下が無かった。
それほど陰惨な印象を受けなかったのは、ほとんど血が流れていなかったからだろう。
あるいは、私の目が色を感じられなくなっていたからだろう。

私の目の前の景色から色が消え、全てが白黒の光景に見えていた。
周囲の音がまったく聞こえなくなり、無音の世界になっていた。
ホームにいる他の人達は、線路に倒れたおばあさんに、まったく気付いていないようだった。
私の脳裏をさまざまな思いが行き来した。
きっと、そうとう混乱していたのだろう。
 -なぜ誰も事故に気が付かないのだろう。
 -電車の運転手は、おばあさんを轢いたことに気付いているはずなのに、なぜ駅員が来ないのだろう。
おそらく、1分程度の間に起こったことなのだろうが、その時の私にとって、この間の時間はその10倍くらいに感じた。
ホームの下のおばあさんの体は、ときどき、ぶるぶるっと、携帯電話のマナーモードのように震えた。
私は、線路に降りておばあさんを介抱すべきかどうか、迷った。
自分も危険かも知れないが、とりあえず線路に降りておばあさんを助けるべきだろうと思い、さらにホームの端に寄ったとき、私は気が付いてしまった。
それは、私にとってさらにショックな光景だった。
おばあさんはレールに覆いかぶさって倒れているのに、おばあさんの背中を斜めに横切るレールが、ホームにいる私には見えていた。
おばあさんの背中から、銀色のレールがまるでそこに埋め込まれたように、光っていた。
それに気が付いた私は、線路に降りるのをやめた。
もう、絶対に手遅れだったから。
私の耳に、ゆっくりと周囲の雑音が聞こえ始めていた。

その後まもなく駅員が駆けつけ、警察も到着し、おばあさんの回りはブルーシートで覆われた。

この人身事故のために山手線が止まったため、私は振替乗車券をもらって、地下鉄を乗り継いで自宅に返った。
それからしばらくの間、近づく電車に背を向けて這っているおばあさんの姿が、脳裏から消えなかった。
私は、あのおばあさんと同じ年代の母を、亡くしたばかりだった。