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表と裏の狭間には 最終話―エンディング―

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船とやらについた。
その船というのは、立派な客船だった。
「これか?」
「ええ。これよ。」
てっきり、俺は戦艦とは言わないまでも、もっとこう、『ゴツい』ものを想像していたのだが。
「まあ、この船は戦闘に使うものというよりは、隠れ家としての意味合いのほうが強いからな。むしろこれで正しい。」
「っていうか、こんなところでのんびりしてていいのかよ?」
「問題ないわ。敵はほとんど拠点の襲撃に行ってるし。今のうちに中に入って、ズタボロにするわよ。」
まあ、それがゆりの作戦だった。
単純にして明快。そして強力。
つまり、敵がこちらの拠点の攻略にかまけている隙に、あちらさんの拠点を叩き潰してしまおうということである。
「さ、突入するわよ。」

ワゴンに乗せて運んできたものは、大量の武器弾薬の類だった。
無数のトランクやジュラルミンケースによって運ばれたそれらは、主に煌の手によって運ばれていく。
というか、大量の弾薬の詰まったジュラルミンケースを五個も六個もまとめて運ぶ煌の力って一体……?
「ああ、オレはもうとっくにキレてんだよ。蓮華が撃たれたのを聞いたその瞬間にな。」
「その割にはいつもみたいに暴走しないわね。」
「暴走しても仕方ねぇだろ。オレだって成長はするんだよ。」
「それで?どうするんすか?」
輝がゆりに問う。
船に乗り込み、展望室らしき場所に荷物を置いた俺たちは、ゆりの作戦を聞く。
「三手に分かれるわ。それぞれでペアを組んで船内を探索、片っ端から殺しなさい。」
「三手?」
「ええ。どうせペアはもう決まってるんでしょ?」
「おいゆり、紫苑はどうするんだ?」
「あんたと紫苑で組みなさい。」
「………お前は?」
「あたしは……。」
ゆりは徐に拳銃を取り出すと、それを展望ガラス(つまり船の舳先の方向)のあるほうへ向けると、引き金を引いた。
ドゥッ!という音がした。
「危ないねぇ。そして惜しかったね。あと五センチ右だったら、俺の頭に直撃してたんだがなぁ。」
展望室の戦闘。展望ガラスのすぐ正面の席。
そこから、一人の男が立ち上がった。
「霧崎………平志………ッ!!」
忌まわしき男が、そこにいた。
「あたしは、あいつと決着を付けるわ。」

「あんた、煌と何を話していたのよ。」
「ちょっとした忠告だ。彼は聞き入れてくれたようだがね。」
あたしより後に甲板に出てきた霧崎平志。
どうやら、煌と紫苑を殺していたということではなさそうだ。
それに関しては安心する。
「なあ、楓よ。」
「何かしら?」
「実はなぁ、彦江と輪音に頼まれていたんだよなぁ。」
「…………はァ?」
彦江と輪音というのは、両親の名だ。
それはいい。誰でも知っていた名前だ。
だが、何故霧崎は、両親の名をああも親しげに呼んだ?
頼まれていたもの、というのは何だ?
「ほれ、これだ。」
霧崎が放り投げたのは、一発の銃弾だった。
爆発物かも知れないという考えが過ぎるが――霧崎はそのような手は使わないことを思い出す。
受け取る。
それは、確かに銃弾だった。
だが、弾丸の規格がおかしかった。
アークで使用している銃の規格とも、一般に流通している大半の銃の規格とも違う。
「………何よこれ。」
「彦江と輪音が熱心に研究していた成果だそうだ。『細胞の結合を解除する液体』の詰まった弾丸だそうだ。」
「何だ。完成してたんだ。」
野々宮さんから聞いたことがあった。
あたしの両親は、ある研究をしていたと。
細胞同士の結合に関するどうのこうの………。
まあ、その『結合の解除』が何に使うものなのかは知らないけど。
あたしは、終ぞ理解できなかった。
銃弾を見ていると、あることに気付く。
『K・HIKOE K・RINNE』
両親の名前だ。
銃弾を見ていると、あることに気がついた。
「お母さんの銃だ。」
母の形見である、金色のデリンジャー。
その口径にぴったりなのだ。
野々宮さんから渡されたその銃は、今の弾丸では使い物にならなかった。
そして、野々宮さんから『ここぞというとき以外は絶対に使うな』と言われていた。
ここが、そのタイミングか。
デリンジャーに弾丸を装填し、元に戻す。
トランクから取り出した、六連リボルバーと、軽機関散弾銃も調整する。
「支度は終わったか?」
「ええ。問題ないわ。」
「じゃあ、始めようか。」

「いい加減、殺したくて殺したくて仕方ねぇんだよ。」

「こっちも同じよ。今まで我慢するのが大変だったわ。みんなのために無茶することも出来なかったからね。でも、それももうおしまいよ。クソ叔父さん。」

霧崎がこちらに向かって走り出した。
あたしは、銃の引き金を引いた。

船内のある隠し部屋。
そこは、『ノヴァ』総本部として使われていた。
「楓ゆり以下七名が船内に浸入!いかがいたしますか?」
「しばらくは放っておきなさい。」
彼女――桜沢美雪は、そこで全体の指揮を執っていた。
現在、各地でアークと交戦中であるが、午後五時を回った頃から問題が発生し始めた。
国家権力が介入を始めたのだ。
まずは警察の機動隊が。次いで自衛隊が。
交戦地域に次々と現れ、両陣営のメンバーを捕らえているという。
ここまで大々的に戦闘をしているのだから仕方がないとは思ったが、それにしては動きが明確すぎる。
誰かの手引きがあったと見るのが順当か。
「近隣の部隊に連絡しなさい。出航を早めるわ。それと、連中に関しては当初の予定で行くわよ。」
美雪はそう部下に告げると、席を立った。
作戦というのはこうだ。
ゆりたちは、この船の乗員が出払っていると思っている。
兵を忍ばせておき、奴らがバラバラに行動を始めたところを確固撃破。
最も厄介な楓ゆりと星砂煌は、霧崎平志に引き付けてもらう。
彼には、前方の甲板で戦うように頼んである。
楓ゆりは当然そこにいるだろうし、そしてそこには星砂煌もいるはずだ。
彼らが平志に気をとられている隙に、物量作戦で一気に殺す。
これは、平志には伝えていない。
伝えようものなら、彼は確実に強力を拒むだろう。
これで完璧だ。
あとは、機を見るだけだ。

「貴様は甲板で待っていろ。俺はこの二人と話がある。」
「はぁ?何言ってるの?」
「安心しろ。こいつらは殺さねぇよ。ただ、ちぃっとばかし男と男の話があるんだ。そっちの甲板で待ってろ。」
霧崎は、ゆりに有無を言わせずにそう言うと、こちらに歩み寄ってきた。
「………なんか用か?」
「ああ。特に星砂煌。お前にな。」
「オレに?」
「どうせ楓に言われてるんだろ?その柊と一緒に船内を探索しろ、とかなんとか。」
「……………ああ。」
「一応忠告しておくぞ。美雪の野郎、随分汚ねぇこと考えてやがるぞ。」
「ああ?」
「美雪の計画だ。あくまで俺の予測だがな。多分間違いねぇ。俺は甲板で戦うように言われてるんだ。お前らを引き付けるようにな。」
「………それで?」
「恐らく、あいつはお前らが俺に気をとられている隙にお前らを殺すつもりだ。」
「………そうかよ。」
「あの甲板に出るにはこの部屋を通るしかねぇ。一応それだけは警告しておく。」
なんか、二人で好き勝手に言い合っている。
言う事は言ったとばかりに、霧崎は甲板へ向かって歩き始める。