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ツカノアラシ@万恒河沙
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novelistID. 1469
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たんていきたん

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「そういう犯罪は、あまり好みじゃないのよね」
乱子が鼻で笑う。彼女は学生鞄の中から、爪磨きを取り出すと先程噛んで傷めてしまった爪を磨き始めた。
「複雑な人間関係も無縁だし」
自称サムーペキンポーは、煙草に火をつけるとあらぬ方向を向いた。その角度が二番、自分の顔が恰好良く見えるからである。ハードボイルドは自分のスタイルにも気をつけなければならないのだ。
「せっかくの、嵐の孤島の上に古びた屋敷という古き良きシュチュエーションが台無しだな」
中川が肩を疎ませて首を振る。しかし、女装姿のままなので何とも不気味で恰好がつかなかった。
「そうそう、私としてはもう少し高尚な犯罪を味わいたいね。だいたい、被害者が美女ではないなんて、何たることだ」
藤井はよほど被害者が美女でほしかったらしい。元になったと思われる人物とは趣味が違うらしい。でも、被害者が美女でなかったことは、ニセ神田川の責任でもなんでもないような気がする。
「でも、そこまで馬鹿馬鹿しい動機を思いついたトコロは評価できるんじゃありません」
玲が妙なトコロで感心をする。
「いやいや、これでネクロフェリアなロリコンなら、まだ救いようがあったんですけどね」
と、名探偵が締めくくって、ニセ神田川の罪の告白への感想は全ておしまいだった。そして、八人の探偵たちは三十点と赤いペンで書かれた紙をニセ神田川に手渡すと、彼から完全に背をむけてしまった。この話は、犯罪批評だったのだろうか。謎である。
「俺は罪を告白しても、こういう扱いを受けるのかっ。神よ何故なんです。俺が何をしたんだと言うんです」
だから、偽名のせいだってば。
ニセ神田川は悲痛そのものの声で叫ぶと、嵐の中に出ていってしまった。その後どこかで、雷鳴をバックにした悲鳴と崖から落ちていく人影が見えたような気がしたが、たぶんそれは気のせいだろう。
「それで、いったい誰が犯人なのでございますか?」
巽はぜひとも後ろから殴ってやりたいほどに、妙に沈着冷静だった。
「僕、考えたんですけど。もしかして、この騒動の犯人は被害者なんじゃないかなー」
玲は額の中央で分けている前髪をかきあげる。これはこの人物の癖らしい。
「自殺殺と言うことか」
「いいえ、文字通り被害者が犯人だと思っています。ただし殺人の犯人じゃないですけどね」
「そんなわけないじゃない」
乱子が抗議の声をあげる。その声に他の探偵たちも同感だと言わんばかりに頷く。被害者が犯人であるなんて、そんなことがあってはならない。探偵たちの内の確固たる信念が、そう言っていたのである。
「そうだ、屍体がどうやって被害者のフリをするんだ」
しかし、ここでは常識が通用しないことを探偵たちが没念していたのは言うまでもない。そう、世の中侮れないのである。
「いえいえ、さっきの地の文で気になるところがあったんですよ。『そして、八人の探偵たちは三十点と赤いペンで書かれた紙をニセ神田川に手渡すと、彼から完全に背をむけてしまった』と、いう場所ですよ。登場人物表を見て下さい。ニセ神田川を除くと、僕ら七人しかいないはずなんですよ」
玲は作者から原稿用紙を横取りすると、件の箇所にい赤ペンで線を付けた。そして、登場人物表と原稿用紙を探偵たちの前に広げてみせる。確かに、そこには八人の探偵が云々と書かれていた。
「と、言うことは」
全員の視線が八人目の探偵に向けられた。平凡な服装に平凡な顔。八人目の探偵は目立たないことにかけては、人一倍だった。
「はっはっは。ばれちゃったか」
異様に明るい声。彼は胸のところに探偵と書かれた札を下げていた。そして、今度は屍体と書かれた札を掛けなおす。そうして見れば、先程まで隣室で倒れていた屍体。その人に間違いなかった。どうやら、いつのまにか紛れ込んでいたものと思われる。
沈黙の嵐が、元被害者以外の登場人物に吹き荒れた。しかし、そのことに気がつかない元被害者は酒々と喋り続けた。
「いやいや、十分堪能させて貰ったよ。嵐の孤島に探偵の集団。そして、謎の屍体を登場させてみたらどうなるかと思ってね。思っていた以上に楽しんませて貰ったよ。どうしたのかね。皆さん顔色が悪いようだが」
明るい元被害者が、自分の顔を凝視したままその場に固まってしまった探偵たちに誘しげに声を掛けた。彼は別に何も罪悪感のかけらすらもないらしい。 探偵たちが一斉に自分を取り戻す。そして、こう元被害者に向かって言った。
「ふっ、ふざけるなー」
見事な混成二部合唱。次の瞬間、探偵たちは我を忘れて元被害者に襲いかかった。悲鳴、怒号、物が壊れる音。この日、初めて探偵たちに協調性と言うものが現れたのだった。

数日後、地方紙の隅に、こんな記事が掲載された。

おかしなおかしな犯罪か?
七月三十一日。嵐の孤島島で、屍体とかかれたカードを首からさげた屍体を里帰りから戻ってきた家政婦が発見。家政婦の証言から、この屍体は嵐の孤島島の所有者で、山田太郎さんと判明。山田さんは、首を締められ、胸を刺され、首を刃物で切られ、頭を鈍器で殴られ、突き落とされた上に毒物を盛られ殺されていた。これは全て同時に行われたことであり、複数の犯人がいるとして警察は考えている。しかし、折からの嵐で嵐の孤島島には山田さんしか滞在しておらず、どのように犯人たちが現れ、立ち去ったのかは全く解っていない。