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井蛙は狂骨の為に歌う

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 そして、このカエルもきっとこの井戸の底にいる意味を見つけたのだろう。だからこそ、彼は今、この故事を口にしたのだ。
『私は、ずっとあなたと一緒に居ますよ』
 その一言がどれほど嬉しかったか。狂骨は思わず泣いてしまう。からからと音を立てて。たとえ涙が流れなくても、自分は今確かに泣いている。
 彼が自分を想ってくれているように、自分もまた彼を想っている。だからこそ――狂骨はその腰を上げる。
『な、狂骨さん。話を聞いていましたか?』
『聞いていたよ。だからこそ、おれっちはお前さんを外に出さなきゃならん』
 ――だったら何で。カエルが鳴こうとすると、狂骨はからからとその鳴き声を遮った。
『いいかい。お前さんはここにいるべきじゃないのさ。こんなところにいて、おれっちと同じようになってはならんのさ。お前さんは外に出て、色んなことを学んで……辛いことも一杯あるだろう。だけど、ふんばるんだ』
『だけど、それじゃあ狂骨さんが……』
『おれっちかい? おれっちなら大丈夫さ。この井戸の中で、お前さんのふんばりを考えるだけで、おれっちは嬉しくなる』
 そう言って、狂骨は身体から力を抜く。
 すると、狂骨は少しずつ宙に浮き始める。
『それでも辛くなった時、そんな時は戻ってくるがいいさ。外での出来事を土産話にさ。この蛙に教えておくれ、大海をさ』
 やがて、狂骨は井戸の縁にまで浮かび上がる。縁に蛙を置いてやると、狂骨は名残惜しむようにカエルに指を差し出す。
『またな、同居人。おれっち、ここんとこ、めっさ楽しかったよ』
『私もです。だから、ゼッタイ戻ってきます。色んな話をお土産に、ここに戻ってこようかと思います』
 カエルは鳴く。名残惜しそうに、寂しそうに。
『そうかい、楽しみにしているよ』
 そう笑って、狂骨はからからと井戸の底へと落ちていった。

作品名:井蛙は狂骨の為に歌う 作家名:最中の中