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ぽんぽんゆっくりん
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novelistID. 35009
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とんぼがすむ島に

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気がつけば音が聞こえてきた。
船を軽くたたく波の音だ。

港を出てから俺は海を見ていた。
どうやら、いつのまにか眠っていたらしい。ハンモックに揺られている感じだからな。
目を擦ると、まだ船の上にいることに気がついた。

港を出てからどれくらいたったのだろうか。
今、俺以外に船には4人の人間が乗っている。

「まったく、今日はあの島で何かあるのかのう。これであの島の客は何人目か」

むっつりした表情で船を操縦している年寄りの船長が言う。
その老人の身体はずいぶん細いが、日に焼けて真っ黒な肌をしている。
熟年の漁師なのだろう。すぐにわかった。

「島にはあとどれくらいかかりますか」
「もう見えてきとるよ」

船長は皺まみれの手で前方をゆっくりさした。
本当だ。島だ。
その島の崖は妙にごつごつしていて、すっきりしない。
その雰囲気がリゾート地っぽくなかった。




一ヶ月前 7月15日 ソレはやってきた。

大学生である浜島達郎は東京のとある木造アパートに下宿していた。

根っからの文系である浜島は文学部に入っている。
大学は面白く、仲間と飲み、帰る時間が深夜をまわることもおかしくなかった。
しかし、それでも単位はしっかりとっていたので、現在は3回生だ。


そんな彼の元にあの招待状がきた。
それは7月15日のことだった。


「ただいま~」

自分以外誰も住んでもいないのに浜島は必ずこういってしまう。
小学生のときに親にしつけられたからだろう。

「はは、返事しても誰もいねーんだけどな」

そうひとり言をいい、玄関で靴を脱いだときだった。

クシャ

何かを踏んだ。
乾いた紙の音がした。

「はぁ、またチラシか」

おびただしい数の広告。ここら辺は都会に近いこともあってか、広告は1日だけでも大量だ。
どうせ安売りの広告ばっかだろう。

近辺にたくさんあるスーパー玉川の安売り広告
最近建てられたマンションの広告
太田バイクの広告
アルバイトの募集

いつも通りだった。
浜島は新聞をとっていなかったので、ほとんど見ずに丸めてゴミ箱のある部屋へ歩んだ。
その時だ。

「ん?」

大量の広告にまぎれて、妙なものがある。
それは黒い封筒だった。

「なんだこりゃ」

浜島は茶色のかかった髪をかきあげ、それを手にとった。

お袋からの手紙か? だが几帳面のお袋に限って黒い封筒なんて……
第一電話で事足りる。
浜島は深く考えずにその封筒をあけた。

中には便箋が1枚、鍵、薄いペラペラの紙が入っていた。
浜島は便箋を手にとってそれを読み始めた。


はじめまして、浜島達郎様。

あなたは私を存じないでしょうが私は知っております。
2年前の10月に私は伊豆諸島にあります、大神島を購入いたしました。
その島は大変美しい自然に囲まれており、すばらしいものです。
私は、知り合いをこの島に招いてパーティを毎年開催しています。
そこで、およそ1ヶ月後の8月16日から3日間、あなたの時間をご頂戴いただけないでしょうか。

もし、ご頂戴いただけるならば、費用はこちらで全額負担、それ相応の御礼もしましょう。
ただ、欠席されるならば、500万円を当日にご返却下さい。
回収は私が参ります。

いかがでしょうか。ぜびおいで下さい。
場所などは、後日改めて封筒にて郵送いたします。

大神島当主



「はっはぁ?」

浜島は声を無意識のうちに出した。
わけがわからない。第一500万ってなんだ?
そう浜島が考えた途端、同封されていた薄い紙が落ちた。

それは小切手だった。それには¥5,000,000とはっきり書かれていた。




「気味悪い島ね~」

俺が思ったことを栗色のポニーテールの女性がそう言う。
名前は若槻。
白色のすごく短いシャツを着ていて、肩が剥き出しだ。
背が低くてかわいいという印象が大きい。
身長はおそらく150cmあるかどうか。
歳は10代だろうか。

「そうか? 俺はあの島にいる主のほうが気味悪いね」

若槻の横にいた男がそう言う。
縞のスーツに縞のネクタイ。
髪はオールバックの30代くらいの男性だ。
名前は幣原だったけか。

「あなたも500万もらったの?」

若槻が幣原に聞いた。わざわざ金額まで言って。

「ああ、わざわざ500万返してまで行けないような用事なんかなかったのでね。」
「でも俺はただ、バカンスに来ないかって誘われただけだぜ。仕事ってなんスか」
「俺の手紙には、仕事の打ち合わせできてくれって書いてあったんだ。君たちもそうだろ」

幣原がその場にいる船長を除いた3人に聞く。

「わたしはバカンス。そこの茶髪くんと一緒」

茶髪くんとはたぶん俺のことだろう。

「私は、仕事だ」

50代くらいの気難しそうな男が答えた。
今まで口を開いてなかった男だ。
船に乗る前に幣原同様名刺をもらった。
名前は大山郁夫。不動産屋らしい。

「あなたも打ち合わせに?」
「そうだ、都内のある土地の売買についてな。しかし、あの金はいったい何のつもりなのか。あれがなければ私が仕事を請けないとでも思っているのかまったく」

そういい、男はため息をついた。
案外よくしゃべる男だ。

「しかし、あんたら仕事じゃて? あんな島にわざわざ出向いて、仕事とは同情するよ」

突然会話の中に加わり、船長がため息混じりに言う。

「おい、あんな島とはどういう意味だ?」

大山が声を上げた。

「え? やっぱりあんたらもなんも知らんのか」

船長がそういい、辺りを見回した。

「そうか、そうじゃろうなぁ」

船長が顎に手を当てブツブツつぶやいている。

「ひょっとして何か変な噂でもあるんですか? その島に」

俺は船長に聞いた。

「うむむ、まあ、大した事じゃないんじゃが……」
「勿体ぶらさずに話してよ。気になるじゃん」

船長はしぶしぶといった表情で答えた。

「あの島はな、獣の潜む島なんじゃ」
「え?」
「数年前までは国が所有しておった。その頃までは『狼島』と呼ばれとった」
「狼ってあの絶滅した?」

船長が無言でうなづいた。

「ここら辺のものの間ではよく言われておったよ。あの島には狼がいる、だから決して近づくなってな」
「狼なんかいるものか、ばかばかしい」

大山が荒れた口調で言った。

「しかし、おったというのは確かなんじゃよ。あの近辺を通りかかった漁師は遠吠えのようなものを聞いたと必ず答えよる。事実、ワシも1度だけ聞いたことがある。あの雄叫び、間違いなく狼じゃ」
「聞いたこともないのになぜ狼とわかる」

大山が船長に突っかかった。
年寄りの妄言と思っているらしい。

「初めて聞いたが犬にしてはおかしかった。あれは狼以外の何でもない」

俺はいつか映画でみた狼男を思い出した。
『アオォォォォォン』と叫ぶ毛むくじゃらの男。あんなかんじなのだろうか。

「しかも、一匹なんてもんじゃなかった。あの島には狼が住み着いとるんじゃよ。くわばらくわばら」
「しかし、ニホンオオカミは絶滅したはずだろ。今の日本にいるわけがない」
「あの島は特別なんじゃ。あの島は日本の領土にははいっとるが、中までは政府も関与しとらん。地元のワシらだけしっとる」