小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

僕の村は釣り日和10~決戦!

INDEX|1ページ/10ページ|

次のページ
 
 ついに土曜日の朝がきた。僕は太陽よりもずっと早く目覚め、ウェーディングシューズを履いた。これから沢を上り、釜の主と対戦するのかと思うと、武者震いを抑えられない。そんな僕の様子を見ていたのだろう。父と母が不意に顔を出した。
「みんなで協力して、最高の思い出を釣ってこいよ」
「釣れたら、写真、撮ってきてね」
「ああ、もちろん。絶対に釣ってみせるさ」
 僕は父に笑いかけた。
 ふと思った。たとえ、皆瀬さんという大人がついていても、鬼女沢のような山奥に子供たちだけで行かせることに不安はないのだろうかと。おそらく釣りをやる以上、水という自然を相手にするわけだから、不安は常にあるに違いあるまい。それでも笑って送り出してくれる両親に、僕は感謝をしなければならなかった。そして何よりのおみやげは無事に帰ってくることだ。そう自分に言い聞かせながら、靴の紐を締める。自分の気持ちと一緒に。

 東海林君の家の前には、既に皆瀬さんのワゴン車が停まっていた。車の前では東海林君と皆瀬さんが、何やら笑いながら話している。かたわらから見れば、それはまるで親子のようだ。
「おはよう」
「おお、おはよう」
 そんな会話を交わすも、二人とも瞳に釣り人だけが持っている不思議な輝きをたたえている。やる気は満々だ。
「おはよう」
 少し遅れて小野さんがやってきた。とは言っても、まだ太陽は顔を出していない。小野さんのデイバッグの中には毛糸の網が入っているはずだ。
「よし。出発だ!」
 皆瀬さんがはりきって車に乗り込もうとした。その時、東海林君の母親が家の中から駆けてきた。
「待って!」
 みんな、東海林君の母親の方を向く。その顔は今にも泣き出しそうだった。
「正、お父さんに、あの人に会ったら、聞いてちょうだい。これからどうしたらいいかって……」
 東海林君の母親は東海林君の腕にすがるようにして、泣いていた。どうやら、あのモヒカン猿の話を信じたようである。
「うん、わかったよ」
 東海林君が優しく母親の肩に手を置いた。その仕草は立派な男のそれだった。
「奥さん、大丈夫ですよ」
 皆瀬さんも東海林君の母親をなだめる。おじいさんとおばあさんも家の外へ出てきた。
「気を付けて行ってこいよ」
 東海林君の母親はおじいさんに支えられながら、まだ涙を流していた。