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てっしゅう
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「初体験・千代子編」 第二話

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千代子編 第二話


日がまだ高い時間なのにこんな場所に入ることはためらわれたが、雄介は千代子の思うままに従っていた。こういう場所に来るのは雄介にとって三度目だった。最初は十三(じゅうそう)で佳恵と、次は難波(なんば)で香奈枝と、そして今日・・・
中に入った千代子は雄介に抱きついてきた。身体が少し震えているように雄介には感じられた。覚悟しているとは言うものの初めてのことに緊張しているのだろうか・・・雄介はより強く抱きしめてやった。

「汗かいているから先にお風呂に入りましょう」身体を離して雄介はじっと見つめながらそう言った。
「そうだったわね・・・ゴメンなさい、くっ付いたりして・・・」
「いいですよ、じゃあ待っていてください。お湯入れてきますから」
「ううん、私がやるから雄介さんが待ってて」
「解るんですか?初めてなんでしょ?」
「そうだけど・・・家と同じじゃないの?」
「俺がやります・・・座って待っていて下さい」
「ありがとう・・・」

千代子は雄介の慣れた態度にまさか!とは感じたがそれを確かめようとはしなかった・・・いや出来なかった。そんな事を聞いて自分が何かを得られるわけでもなかったからだ。むしろ悲しさがより増すように感じられた。

数分の時間が過ぎた。

「俺が先に入ります。いいですか?それとも・・・一緒に入りますか?狭いけどなんとか大丈夫ですよ」
「一緒に?・・・」千代子は考えた。今日が最初で最後だから恥ずかしさを捨てて大胆になろうと・・・
「雄介さんは彼女とは一緒に入るの?」
「入ってくれません、恥ずかしいって言いますから」
「そうよね・・・私も恥ずかしいけどあなたがそういうならいいよ」
「そうですか!じゃあ、一緒に入りましょう」
雄介は手を引いて千代子と風呂場に向かった。自分が先に脱いで、千代子の着ているものを脱がせてやった。恥ずかしそうにしていたが雄介がしてくれることにじっとしていた。

千代子はとても綺麗な身体をしていた。シミ一つ無い真っ白な肌は吸い付くように滑らかで薄ピンク色の大人の色気を映し出していた。佳恵と比べては可哀そうだけど、大人の身体なんだと感じられた。

「こんな事をして私って大胆よね、雄介さんに嫌われそう・・・」
「嫌いになんかなりませんよ。千代子さんは本当に綺麗だ。俺が今までに逢った中で一番女性らしいです」
「ウソでも嬉しいわ。雄介さんは色も白いし、細身だけどしっかりとした筋肉もついているのね。初めて男の人の身体見たけど、私も知っている男性の中では一番の理想的な人よ」
「俺たちって本当は仲良くしてゆけるんじゃないのかって・・・そう思いました」
「雄介さん・・・惑わせるような事言わないで!女として見てくれればいいだけなんだから・・・そうして!」
「年の差が気になるんですか?」
「それもあるけど、あなたには彼女が居るじゃないの!私とこんなことをしているって知られただけで終わっちゃうのよ、違う?」
「そうだと思うよ」
「だから・・・一度だけの内緒の付き合いでいいの。私が無理やり頼んで断れなかった・・・それでいいの。余計なことは言わないで、悲しくなっちゃうから」
「千代子さん・・・好きです!本当です・・・」
「ダメ!雄介さん・・・抱いてくれるだけにして・・・あなたの欲望を果すだけにして・・・」
「こんな事だけで終わっちゃうんですか?」
雄介はそう言って千代子の身体を抱きしめた。

「そう・・・こんな事だけで、終わるの・・・」
千代子はそう言ったあと目を瞑って唇を雄介に強く押し当てた。初めてのこととはいえ高まる感情に任せて吸い続けた。

高校生の頃のことを思い出していた。千代子は京都では有名なお嬢様学校に通っていた。短大までずっと女子ばかりの学校だったから男性と出会うきっかけは無かった。アルバイト禁止、親兄弟以外の男性との出歩き禁止、夜の外出禁止などの厳しい校則が両親の目とあわせて悲しい足かせとなっていた。それでも仲の良かった他校の女子と一度だけ奈良へ遊びに行った事があった。
その時に知り合った男性と手紙の交換をしていた。両親へは文通仲間だと言い逃れしていた。この頃文通は海外も含めて結構ブームになっていて、関連の本がいくつか販売されていた。

千代子は男性から来る返事をドキドキしながら読んで、自分の気持ちをまた返事に込めた。
何度かそういうことがあって、「逢いたい」と向こうから誘いがあった。両親への言い訳を考えて苦肉の策で女友達と一緒に大阪の待ち合わせ場所へ出かけて行った。彼は優しい人柄で自分より二歳年上の大学生であった。たくさん話をして、また逢おうと約束して家に帰ってきた千代子を怖い顔をして父親が待っていた。

「千代子!誰と会っていたんだ?」
そういきなり切り出され、友達の名前を言ったが、
「いけないとは思ったがお前の手紙を見た。文通している男と会っていたんだろう。違うか?」
「友達と一緒に逢ってもらっていたんだよ。いけないの?」
「うそを言え!ここに何て書いてあると思っているんだ。読んでみろ!」
千代子が見せられた手紙は彼からのもので、「二人で逢いたい」とはっきりと書かれてあった。
「逢って話をしただけなのよ。何故いけないの?」
「学校からなんて言われているのか知っているだろう!退学になるぞ。そんな事になったら勘当だから覚えておきなさい。今からその相手に二度と会わないという手紙を書きなさい。お父さんがその手紙をポストに入れてくるから・・・早くしなさい」

千代子は父親の剣幕にこれ以上反抗する事が出来なくなって言われる通りに手紙を書いた。悲しみを封じ込めた手紙は父親の手でポストに投函された。しばらくして来た返事には「今まで楽しかった。ありがとう」と結ばれてあった。

その夜は眠れなかった。ずっと泣いていたからだ。自分は恋愛をする事も許されないんだと悲しくなってしまった。短大に入ってもその事が尾を引いていて誰とも付き合うことが出来なかった。銀行に就職して何人か言い寄ってくる男性がいたが自分の好みのタイプではなかったので退けていた。母親が親戚から勧められた見合い話を持ち出したときに自分はもうこれで何も知らずに結婚しなければならないのだと悲しくなった。せめて最後の思い出にと親しい女友達2人と三人で十和田湖に行く旅行を計画した。
そして日本海側を旅して途中で立ち寄った鯨波の海水浴場にあった民宿「妙智寺」で雄介たち高校生のグループと一緒になった。

唇を離して千代子は恥ずかしそうに雄介を見つめてすべてを任せる覚悟をした。雄介は丁寧に焦らず千代子を優しく愛した。
初めてなのに千代子は雄介の優しさの中に深くそして強く溺れていった。

「ありがとう・・・雄介さん。あなたでよかった・・・こんな気持ちになれたから」
「千代子さん、最高だったよ。初めてだなんて思えなかった」
「褒めすぎよ、気を遣ってくれているのね。ずっとずっと今日の事は忘れないから・・・想い出として胸に仕舞って生きてゆくから。あなたは彼女さんと仲良くしていつかは結婚するようにしてあげてね。悲しい思いは私だけでいいから・・・」