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ゆびきり

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ゆびきり



 午後七時を過ぎた。喧騒に包まれた自動改札前の時計台の広場には、夥しい人の傘を持つ姿が溢れている。まだ雨は降り続いているのだろう。
人が約束の時刻を必ず守る習慣があれば、その場所での待ち合わせの人の姿は常に百人以下ということになるに違いない。だが、実際は恐らく三百人以上の人々がそこで約束をした相手を探し、途方にくれたような表情を浮かべている。
 その時計台の広場で中野は、この一年間に恐らく五回は待ち合わせをし、少なくとも五回はすっぽかされたのだった。途方にくれた顔をして。
 現れなかった待ち合わせの相手の殆どは、男だったのだろう。女性からのメールを装って送信されて来たものを、中野はいつも信じたのだ。「サクラ」からのメールを。
「今はハンバーガーショップの前に居ます」
 そんなメールが来たときに、その店の前へ行ってみると十人も女性が居て、そのうちの何人かは携帯電話の液晶表示を見ていたりする。
「サクラ」は臆面もなく可愛らしい女性の写メールを送って来る。待ち合わせに関して問い合わせると、何度も答えをはぐらかす。問われても自らの髪型や服装、持ち物についての説明は絶対にしない。
作品名:ゆびきり 作家名:マナーモード