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てっしゅう
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「夢の続き」 最終章 岡山の暮らし

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恭子も正樹と仲良く交際を続けていた。卒業して社会人になるまで交際が続いていたら結婚を考えて欲しいと告白していた。
もちろんその時まで清い交際を続ける。そのこだわりは恭子が貴史に対する心の約束であった。

就職を前に三月の初め東京に帰った貴史は両親に報告をし、千鶴子に会いに行った。
「おばあちゃん!貴史だよ」
「また・・・そんな大きな声出して、はいはい今開けますから」
秀和の勧めにも応じず一人暮らしを続けていた。

「お土産だよ、はい」
「ありがとう・・・子供は元気かい?」
「ああ、二人とも元気だよ。もう少し大きくなったらディズニーに連れて行ってやりたいから来るよ」
「そうかい!楽しみだね」
「ねえ?おばあちゃんどうして父さんたちと暮らさないんだい?」
「まだ足腰が動くうちは一人でいるよ。お友達もいるしね」
「心配してたよ、父さんも母さんも。俺だってそうだよ」
「貴史はいいのよ。洋子さんと子供のこと心配しているだけで・・・親なんて厄介なものになって行くだけだから」
「そんな事を言って・・・誰もそんなふうに思ってないよ」
「お前は優しいからそう言ってくれるけど、世間はみんなそうなんだよ・・・」
「おばあちゃん、真一郎おじいちゃんの言葉の意味言っただろう?みんなが仲良く平和に暮らさないと戦争の犠牲者が
浮かばれないんだよ。子供の世話になることに気遣いは要らないよ。おばあちゃんも甘えればいいんだよ」
「その時が来ればそうするよ。ありがとう・・・お前幾つになった?」
「22歳だよ」
「そうか・・・」

ひょんなことから貴史の歴史への興味が大東亜戦争を知りたいと言う気持ちに動かされた。それは、修学旅行で訪れた広島原爆記念館
での展示だった。そして自由時間に幼馴染の洋子と出かけた散歩で「好き」だと告白された。中学三年の夏に無理やり洋子にキスをした
ことで気まずく感じていた貴史は、洋子の想いを聞かされ自分もそうだと交際が始まった。
戦争体験者の祖母千鶴子に話を聞き、疎開先で世話になった百瀬佳代を訪ねて亡くなった祖父真一郎のことを聞いた。
祖母から聞かされた「俺は間違っていた・・・」の真一郎の遺言を貴史は考えることにした。二度目の広島への旅行で知り合った佐々木勇介
は貴史にとって戦争体験者としてだけでなく本当の祖父になる出会いとなった。佐々木の息子修司と洋子の母由美が再婚したからだ。
貴史の勧めで再婚を決意した由美は夫になる修司の連れ子、恭子が貴史を好いていることに悩みを抱いていたが、洋子の大きな気持ちが
恭子の心をほぐして仲良く新しい生活の場岡山で実現した。貴史と洋子は結婚して子供を儲けた。恭子は大学生になって恋人が出来た。
千鶴子は夫にそっくりになっている貴史の幸せを願わずにいられなかった。

夫真一郎の面影を濃く残している貴史の顔をじっと見つめて結婚した二十歳の時を思い出していた。
もしあの戦争が無かったら夫は徴兵を終えて戻ってきて一緒に秀和と次に生まれるであろう子供たちと平和に暮らしていた
だろう。目の前の貴史を見てどう感じただろうか。我が子秀和への思い、孫の貴史への思い、それは今を平和に生きていることの証だ。
300万人を超える犠牲者を出して終結した大東亜戦争への非難は数え切れないほどあるだろう。そして、日本は侵略ではない堂々とした
戦争を始めたと声を出す人たちもいる。しかし国家の面子にこだわって国民を苦しめた罪は大きい。軍人が暴走した時代背景であるとしても
戦後の処理を誤ってはいけない。人間の一番恐ろしい執念で再び国が動かされないことを命をかけて見守ってゆかねばならないと
千鶴子は思った。