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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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夏色のひみつ

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「ぼくは本当はもう消えているはずだったんだ。埋蔵金なんかなかったんだし」
「え? そうなの?」
「正確に言うと、ここに移り住んだ人たちはたくさんのお金も持ってきて、山に洞穴を掘って隠したけど、ここでの生活のために使ってしまったんだ」
「ふうん」
「なのに、埋蔵金の伝説だけが独り歩きして、おまけにぼくみたいなお化けまで作ったんだ」
 自分でおばけっていったのがおかしくて、ツッコミを入れてやろうかと思ったけど、ぐっとこらえた。
「でも、伝説も妖怪も信じる人がいなくなれば消えていくものさ。だからぼくだって、もう知ってる人なんかいなくなったんだから、消えていくはずだった……」
 私は口を挟んだ。だって、こがね丸はわたしに助けてって言った。それは自分が消えてしまうのがいやだからだと、わたしは思っていたから。
「ちょ、ちょっとまって。あんた、消えていくのがいやなんじゃないの?」
 こがね丸は大きくうなずいた。
「ぼくはうその存在じゃないか。もともといなかったんだ。だから消えていくことはいやじゃない。むしろほっとすることなんだ。なのに、ぼくの体の中にほかの思いが入ってきて……」
「ほかの思い?」
「そう、今までの迷信とか恐れとか、そういう妖怪を生み出す気とはちがうものだよ。それが強くなって、ぼく消えかかった体を復活させちゃったんだ」
 わたしは必死で理解しようとしたけど、やっぱりよくわからない。
「ごめん。どういうことかよくわからないわ」
 すると、こがね丸は困ったような顔をした。部屋の中がだいぶ明るくなってきたので、表情もよくわかる。
 少しの間、ふたりとも沈黙していたけど、わたしは、自分が妖怪のことをわかっていないことに気づいた。
「そうだ、その妖怪を生み出す気ってなに?
妖怪ってどうやって生まれてくるの? そこから教えて」
「そうだったね。妖怪のことから話さなきゃ」
 そういって、こがね丸は姿勢を正した。
「さっきもいったけど、人間の恐れとか迷信とかが一番大きな原因なんだ」
「恐れや迷信?」
「うん。とくに自然の物に対して、粗末にしたら罰が当たるとかいうだろ? それは恐れと同時に敬う気持ちがあったからさ」
 わたしはうなずいた。
「たとえば、身近なものでいうと手ぬぐいを使ったままでそのへんに放っておくと、しろうねりっていう妖怪になる。それは手ぬぐいを大切にしろっていう気持ちの表れからでたものなんだ」
「そうか。物を大切にする気持ちと恐れの気持ちかあ」
「うん。恐れから生まれたのはそういう妖怪。ぼくの場合は迷信だな。お金の精が世に出たがってるなんてさ。お金はものだから気はないのに、人間がお金に気をあたえちゃったんだ。それでぼくという形になった」
「うん。人間の気持ちが妖怪を生み出すって、わかるわ。お母さんがいつか言ってたことがあるの。口裂け女の話」
「ああ、そんなのが流行ったことがあったね」
「うん。結局はだれも見てないのに、もっともらしく姿形がああだとか、こうだとか言われたのよね。お母さんは子どもだったからこわかったって」
「そうだよ。本当はなんにもないんだよ。なのに勝手なイメージでつくられちゃってさ」
 こがね丸はすねたように言った。
「それで、さっき言ってたこと。ほかの気持ちってなに?」
 ここでやっと話が本題にもどった。外は日が差してすっかり明るくなっている。そのせいか、こがね丸の姿がうすくなったように見える。
「どうもぼくのことを子どもだと思ってるんだ。その人は。だからぼくは……」
「でも、その人にはこがね丸が見えてるの?」
「ううん。そういう霊感弱いから見えてない。でも、思いが強くてどんどんぼくの中に入ってきたんだ」
「で、わたしにどうしろっていうの?」
「その人に、もう子どもはいないんだってわからせてほしいんだ。そうすれば、その人はもっと幸せになれるし、ぼくも安心して消えていける」
「じゃあ、どうしてわたしじゃないとだめなの? わたしは今年たまたまここに来ただけなのよ」
「だって、君はぼくの……」
 こがね丸がそう言いかけたとき、
「まゆ。だいじょうぶ?」
廊下からなっちゃんの声がした。
「なっちゃん。だいじょうぶよ。起きられた」
 わたしが返事をすると、なっちゃんが入ってきた。
「食欲はどう? お粥でもつくってあげようか」
 そういいながら、わたしのおでこに手を当てた。
「あんまり食べたくないな」
 ほんとうに食欲はなかった。
「うん。ほとんど平熱ね。食べないのも毒だから、おなか空いたらおばあちゃんに言うのよ。用意だけしておくから。それで今日は一日寝てなさい」
 この時の言い方がお母さんそっくりだったので、わたしはちょっと吹き出した。
 なっちゃんがいる間、こがね丸は部屋の隅っこで小さくなっていた。
 もちろんなっちゃんには見えていないんだけど、自分でそうしているのか、日射しのせいなのか、体がうすく透きとおっていた。急に元気がなくなったみたい。
「こがね丸」
 こがね丸は返事もしないですうっと消えてしまった。
作品名:夏色のひみつ 作家名:せき あゆみ