小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

森と少女~forest

INDEX|9ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

シーン5(イモムシとアリス)


 バレリーナが立ち去っても踊り続けているアリス。
 BGM終了直前にイモムシが舞台袖から突進してきて、アリスにぶつかる。衝突音のSE。

アリス「(弾き飛ばされるように倒れて)きゃっ!?」
イモムシ「(アリスとは反対側に弾き飛ばされて倒れる)おわっ!?」

 互いに倒れるアリスとイモムシ。

アリス「(腰のあたりを押さえて)いたた……(ゆっくり起きあがると、イモムシの方を見る)」
イモムシ「ぬおおおっ(手足をじたばたさせて暴れている。しばらくそれを続けて、不意にぴたりと静止して)…………おりゃあぁっ(再びじたばたと暴れ始める)」
アリス「(訝しげに)えっと……?」

 アリス、恐る恐るイモムシに近付く。イモムシはアリスに気が付くと、アリスの方を見て、

イモムシ「(大声で、叱りつけるように)おいこら! 見てねえで助けろよ!」
アリス「(驚いて)は、はいっ!」

 アリス、慌ててイモムシを助け起こす。起きあがったイモムシはアリスに礼も言わず、

イモムシ「よし、今度こそ行くぞぉぉ……(叫びながら、舞台から走り去る。叫び声は徐々に小さくなって)」
アリス「(呆然としてイモムシの走り去った方を見つめる)行っちゃった(ぽつりと呟いて、ふと何かに気付いたように、怒った口調で)……って、助けてあげたのに、何で私が怒られなきゃいけないのよ」

 アリス、憮然として、イモムシが走り去ったのとは反対方向に歩いていこうとする。するとイモムシの叫び声が徐々に大きくなってきて、走り去ったのとは反対側(アリスの進行方向)からイモムシが突進してくる。

イモムシ「(叫び声が徐々に大きくなっていく)……ぉぉぉおおお!」
アリス「(衝突する直前、ひらりと身をかわして)」
イモムシ「(舞台に飛び込むように転ぶ。そのまま少し転がって、うまく座っている体勢になりアリスを指さして大声で)何でよけるんだよ!」
アリス「(負けじと大声で)何でぶつかってくるのよ!」
イモムシ「(アリスの台詞が終わった直後、間を置かずに)なんでだろう?」

 呆れているアリスを尻目に、イモムシはよろよろと立ち上がる。アリスの方を見て、

イモムシ「とにかく! おまえのせいで余計な時間をくっちまったじゃねえか!」
アリス「なっ……!」
イモムシ「(畳み掛けるように)俺は忙しいんだよ! そんなところにボーッと突っ立ってやがったらぶつかっちまうのも当然だろうが! もっとこうあるだろ、端っこに立ってるとかぶつかってもすり抜けるとか!」
アリス「(堪えて肩を震わせながら、黙って聞いている。何度か深呼吸して)」
イモムシ「(激しく落胆したふうに肩を落として)ああ、きっともう行っちまったろうなあ(突然立ち直り、アリスに詰め寄って)もしこれで会えなくなったらおまえのせいだぞ! どうしてくれるんだよ、俺がこれで深い心の傷を負ったらどう責任を」
アリス「(イモムシが話している間、大きく息を吸い込んでいる。最後の台詞のあたりでイモムシの台詞を遮って)静かにして!」
イモムシ「(途端にしゅんとする)はい……」

 イモムシ、アリスから数歩離れる。アリスは怒った様子でイモムシを見て、

アリス「さっきから聞いてれば、なんで私が怒られなきゃいけないのよ! だいたいいきなりぶつかってきて、あなた一体誰なの?」
イモムシ「お、俺か? 俺は見ての通りの(その場でターン。気障なポーズをとって、低い声で)ダンディよ」
アリス「(間を置かずに)イモムシね」
イモムシ「人の話を聞けよ!」
アリス「どう見てもイモムシじゃない」
イモムシ「(憮然として)そりゃそうなんだけどよ……だいたい、おまえこそ誰だよ。人間の女の子なんか、この森にはいないはずだぞ?」
アリス「私は……(少し口ごもり。小さく頷くと)私はアリス。まだ、この森の住民票には登録されてないの」
イモムシ「(感心したふうに)ああ……それで見覚えがないんだな。成る程ね」

 イモムシ、大きく溜息をついて肩を落とす。アリスは不思議そうにイモムシを見て、

アリス「ねえ、さっきからどうしたの? もう行っちゃったとか、会えなくなったらとか……誰かと待ち合わせ?」
イモムシ「ああ?(アリスを見て、どうでもよさそうに手を振る)なんでおまえにそんなこと教えてやらなくちゃいけねえんだよ。ほらほら、もういいからあっち行ってろ。住民票に登録されてない奴がこんなところをウロウロしてると、警備隊に捕まるぞ」
アリス「(明るく)警備隊の隊長さんとはもうお話したもの。森の奥まで一人で行けば、住民票に登録できるんだって(ここで少し声のトーンを落とし)でも……森の奥って、一体どこまで行けばいいのかな」
イモムシ「(うるさそうに)そんなこと知らねえよ。ここらへんだって充分森の奥なんだからな。わかったらほら、あっち行ってろよ」
アリス「(一歩ずつ近付いて)イ・ヤ・よ。助けてもらってお礼も言えないような人に、命令なんかされくたない」
イモムシ「ああ?(声を大きくして)俺が倒れのは、おまえがそんなところでクルクル踊ってたからだろうが! 変な踊りしやがって(適当な振り付けで、奇妙な動き)こうか? こうなのか?」
アリス「そんな変な踊りしてないわよ!」
イモムシ「(奇妙な踊りを続けて)ふん、もっと変だったよな!(更に踊りを続けて、ぽつりと小さく)……なんか、だんだん面白くなってきたな」
アリス「(深く溜息をつき)もう、いい(あたりを見回して不安げに)どうしよう……バレリーナさんだったら森の奥への行き方、教えてくれると思ったのに、いつの間にかいなくなっちゃったし……」
イモムシ「(バレリーナさん、とアリスが言った瞬間にアリスの方を見て動きを止めて、そのまま静止)」
アリス「誰か他の人に会えたら聞こうと思ってたのに(イモムシを見て)こんな人じゃ……(一度イモムシから視線を逸らして、何かに気付いたかのような表情で視線を戻し)……こんな人じゃ?」

 アリス、イモムシのすぐ側まで歩いていく。目の前でヒラヒラと手を振ってみるが、イモムシは静止したまま。

アリス「……イモムシさん?」

 イモムシ、静止したまま。アリス、疲れたような様子でイモムシを見て、

アリス「(溜息をついて)変なの……いきなり怒鳴ったり、静かになったりして(忙しなく周囲を見渡し)……って、こんなことしてる場合じゃないわよね。早く森の奥に行かなきゃ(うん、と一度頷いて歩いて行こうとする)」
イモムシ「(突然動き出して)ま、待て、待ちやがれ!(アリスの前に回り込んで、偉そうに)」
アリス「(怒ったように)あなたにそんなこと命令されたくない」
イモムシ「(偉そうにしたまま)待ってください!」
アリス「(呆れて肩を落とし)全然変わってない」

 イモムシ、疲れたように立っているアリスの肩を掴んで、

イモムシ「(がくがくとアリスの肩を揺らしながら)な、なあ。ひょっとしておまえ、この辺りであの子を見なかったか?」
アリス「(揺らされて)あの子って?」
イモムシ「(手を離し、勢い込んで拳を握り)あの子っつったらあの子だよ! ゼンマイ仕掛けのあの子だよ!」
アリス「ゼンマイ仕掛けの……バレリーナさん?」
作品名:森と少女~forest 作家名:名寄椋司