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金の燕

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 狭い食堂での一人十五分割り振られた交代制の夕食。ごろごろとじゃがいもが島になっているシチューが、二週間経っても追いつくのに精一杯なオレの胃を痛快に刺激した。別に自分で出来るのにナロトンは序列序列といって出来る範囲でオレに食事を持ってきてくれたり風呂で背中を洗ってくれたり、何かと傍にいたがる。外見だけで人を避ける顔をしているナロトンにそうされると、まるでオレがすごく強いかすごい後ろ盾を持っているように誤解されてしまって正直、参っている。それに拍車をかけているのがアモリさんで、ナロトンのいないところではアモリさんがオレをガードしているような形で世話を焼いているというか付きまとっている。おかげでローラの知り合い、というだけで危惧したいじめの心配はなくなったけれど、どうも他から一歩退かれていて寂しい。実際は脚の速さを褒められただけの一般市民なのに。といったら“エナ副隊長”のラン兄さんに怒られるかもしれないけども。
 独りだったらもっと寂しいか、とプラスに考え、オレは同僚と共に祈りを捧げ、シチューにスプーンを突っ込んだ。
「明日は摸擬試合だね」
 アモリさんが堅いパンを千切る。気を重くしながらオレは頷いた。
「現役の軍人とランダムで剣を交えるのか……緊張しないわけがねえな」
 じゃがいもを熱そうに食べ、ナロトンも肯定した。
 元ゴロツキと元一般市民、二人ともこの半月でかなり強くなった。多分もうナロトンはローラ相手でも簡単にアッパーは許さないだろうし、アモリさんも剣術の使い方にはかなり切れが出てきていた。で、オレはといえば。
「明日なんて来なければいい……」
「まあまあ、マイクの兄貴」
「強い人間と戦うと一皮剥けるかもよ?」
 いまいち実力に自信を持てずにいた。弱音を吐くことは推薦者のラン兄さんに迷惑がかかることに繋がるが、この二人には何だかんだいって気を許している自分がいる。
「何にしても、チャンスだよ。自分の力を試す」
「そうですけどね……」
「堂々と誰かを負かすことが出来るんだ。軍人さん相手にストレス発散出来るなんてすごいことだよ。それもうっかり殺しちゃっても誰も文句はいえないし」
「穏やかじゃねえな」
 ナロトンがアモリさんを睨みつけると同時、カン、と鐘が一度鳴った。あと五分で後続の人たちが食堂に押し寄せてくる。オレは急いでシチューを胃にかけこみ、パンを咀嚼した。味わって食べるなんて、ここに来てからしたことがない。クラリスの菓子がなつかしい。忙しなく食器を片付け、食堂を出る。
「さて、風呂かな……」
「自分もだ」
「じゃあ僕はまだだから、部屋に戻るね」
「あ、おやすみなさい」
「会いたくないけど会ったらまた明日な」
 おやすみ、と手を振るアモリさんに頭を下げ、着替えを取りに一度部屋に向かう。偶然なのかどうなのか不明だけど同室のナロトンも相変わらず一緒に歩く。
「なあ、マイク」
「……なに?」
「こんなこと言いたくねえんだけどよ」
 いつもとは違う真面目な声色に顔を上げる。普段なら兄貴を名前のあとにつけているのにそれがない。春と夏の中間の生温い風がオレの髪を乱す。
「あいつには気をつけろよ」
 あいつ、というのはアモリさんのことだとすぐにわかった。ナロトンは出会い頭からアモリさんのことを嫌っていたけど、オレの前ではゴロツキレベルの目線で睨んだり凄んだり突っかかったりするだけで、こうやってオレに忠告するような真似はしてこなかった。
「……まあ、程ほどに」
「大丈夫かあ? マイクの兄貴って余裕がないから見てて不安になるんだよなあ」
 いつもの調子に戻ったナロトンに余裕がなくて悪かったなと拳を軽く振るい、まあまあと軽く流される。宛がわれた部屋から着替えを取った頃にはそんなやり取りも忘れるような雰囲気で、オレは風呂場に向かいながらふと月を見上げた。

作品名:金の燕 作家名:斎賀彬子