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感覚

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「私、不思議な体験を一度だけしたことあるよ」

そう話してくれたのは酒井だった。
酒井は私がネットで怪談奇談系のサイトを持っている事を、知っている数少ない友人の1人だ。
それで何気なくネタ的なものがないかと、話の合間にそれとなくふってみたら、酒井はふとそういった。

「へぇ、どんなこと?」

酒井のその話に興味をもった私は聞いてみた。
彼女はごく普通の女の子で、確かにそっち方面は疎いように見えたのに。

「ん〜それがね」

酒井は少し妙な顔して、口を開いた。

「なんていうのかな、あの感覚。」


感 覚



それは私が高校3年生の頃よ。近所にあるコンビニにちょっと買出しに行ったの。
コンビニのお菓子の陳列台を見ていたら、ちょうど店の中に私と同じくらいの女の子が入ってきたのよ。
その子も何かを買いに来たみたいで一番、奥の方へと進んで行った。

その一瞬だけど、その子と目が合ったの。
その子と目が合った。

その時なんていうのかな。
目が合った瞬間、変な感覚がしたのよ。

”あれ?この子、知ってる”

その時、初めてその子に会ったのにも関わらずよ?
普通なら通り過ぎるだけで気にもとめなかったのにその時は、何故かそう思ったの。ホントに今まで感じたことがない変な感覚よ。

こう…なんていうか『確かに知っている』って、体で覚えているような。
おかしいでしょ?でもそう感じちゃったんだから。

そしたら…
変に向こうにいるその子に意識が向いちゃって。心臓がドキドキしてきた。

(あの子、知ってる子だっけ??)

なら、小学校の時に会ったかもしれない?
中学校?高校?それとも近所の人?
けど全然、思い当たらないし、一度も会ったことがない・・・
よく考えると唯の通りすがりの人だって、通り過ぎた人の顔とか覚えていないでしょう?

その感覚に私は戸惑ってて、とにかく何か買おうと適当にお菓子を持ってレジに
向かったの。
そうしたら、先にその子が隣のレジに並んで会計を済ませてた。
隣にいるだけでも肌で感じる。確かに、その子のことを知っている。

でも重ねていうけど、私はその子とは初めて会うのよ。

それでね。会計を済ませて、私が外に出たらもう先にその子がいた。
なんだか私が出てくるのを待っていたらしいのね。

急いで通り過ぎようとしたらあの、すいませんて、その子が遠慮しながら声をかけてきたの。
まさか私を待ってたかしら?って。なんとなく思ってて。そしたら、

「…あの何処かで会いましたか?」

「え…っ」

私がその子と目が合ってからずっと思っていた事を言われたのよ!
そんなこと絶対、わかんないでしょう?考えてる事がわかるなんて。

「あ、ううん…」

何が何だかわからないけれどそう返事をした。
そしたら、その子も複雑な顔をして私を見てるわけ。

「そうですよね。知りませんよね…」

うーんと、唸ってその子もなんか困ってるみたいだったから。

「あ、あのね、おかしいと思うんだけど…」

今まで思った事、感じた事をその子に思い切って話してみた。
で、話しているうちにその子の顔色が変わったの。

「…本当ですか!?私も実は目が合った瞬間、あれ?何処かで会ったかな?って思ったんです。」

それを聞いた私も思わず鳥肌たってきちゃった!
だって、その子もその瞬間に同じ事を感じたっていうんだから…

よく聞いてみるとその子は何処か、から自分の家に帰る途中だったみたい。
それでなんかお土産買って帰ろうと、このコンビニに初めて寄ったんだって。
そんで、まずは真っ直ぐに弁当がある陳列台に行こうとしたら私と一瞬、目が合った。

”あれ?この子、知ってる”
私が感じた事をその子もその一瞬で感じてた。

・・・お互いに顔を見合わせたわよ。

お互いに信じられないけど、それでも無意識にお互い『知って』いるわけ。
偶然にそう知らない他人が同じ事を思うなんて絶対、ないでしょ?

「へぇ〜そんなことがあったんだァ」

それは聞けば聞くほど不思議な話だった。
見ず知らずの他人にそんなこと絶対に感じないし、ナンパの男だってそんなテは使いはしないだろうし。

「うん。」

酒井はちょっと苦笑して。

「でね、なんか不思議なんだけどその子と話していたら、まるで親しい友達…っていうか、親兄弟みたいな?感覚で話してたのよ。安心…して話しかけてもいいかなと思うような。」

「ふーん。」

それになんとなくその子といる空間は、とても居心地が良かったと酒井は付け加えた。そして、例のその子とはそのまま話して笑って別れたらしい。
その後は会った事もないと言った。

「で、その変な感覚はその後に感じた事があるの?」

素朴な疑問を酒井に聞いてみた。酒井はううん、と首を振って。

「ないよ、それ以上は。やっぱりアレは偶然でその日限りのものだったんだよ。」

私は頷いた。確かにそれはその日限りだったのかもしれない。
多分…誰に対しても感じるものではない、特別な感覚だったんだ。酒井とその子だけ感じたもの。

きっと。

酒井とその子は、この時代ではない何処かで確かに会っていたかもしれないな、と思った。

見えない何かの『縁』で繋がって。

私もいつか、何処かでそういう人に会えるのだろうか?
もし会えたとして、そうしたら『感覚』でわかるのだろうか?

私はぼんやりと、そう考えていた。


fin
作品名:感覚 作家名:ぐるり