二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Ecarlate

INDEX|12ページ/18ページ|

次のページ前のページ
 

#six



「あんたはアホかああああああ!!」
 背後からめちゃくちゃに乱射される銃撃から逃れつつ、エドワードは声を限りに叫んだ。と、隣というか斜め前をやはり疾走する男からは、怒鳴る勢いで…、
「つべこべ言わずに走らんか豆!」
「てっめ殺す、ほんっとマジ殺す…っ!」
 ―――エドワードの走るスピードが増したのは、言うまでも、ない。


 …マチルダ・ローズの裁判執行を翌日に控えたその夜。
 エカルラートを望む市民の声は高まり、図らずも目に見えぬ扇動者の思惑通りになっていた。エカルラートが現れれば、そしてマチルダを獄中から救い出せば、市民はひそかにしかし明らかに快哉を叫ぶことだろう。だが、現れれば今度こそ軍は「彼」を逃しはしまい。むしろエドワードは、エカルラートを軍が燻り出そうとしているのではないか、とさえ感じていたのだ。十四年も経った今更にそれを行おうとしている理由はわからないが、あるいは、と。
 それは直感めいたものだったが、エドワードの勘はよく当たるのである。
 そのエドワードの勘はこうも言っていた。
 エカルラートは来る、と。

「…ボク思うんだけどね」
 調べ物を中断して、アルフォンスが顔を上げたので、エドワードもまた手を止める。
「ん?」
「この人ってさ、…エカルラートね。…単独犯じゃ、ないよね」
「…なんでそう思う?」
 エドワードはようやく顔を上げ、椅子の背もたれに身を投げるようにし、弟をじっと見つめた。回り道にしかならないことだが、エカルラートが気になって、エドワードは止められなくなっていた。
 …正確には、隠しているロイとヒューズに腹を立てているのかもしれないが。
「ん…、単純に、協力者がいないと難しいかなって」
「…うん、…それはまああるかな」
「でしょ。まずね、最初の事件だけど。未亡人救出事件ね。これって、まず、時系列で追っていくと、カードが届いたわけだね」
「うんうん。カードが事前に届いたのはこの時だけなんだっけか」
「そう。資料を追っていくと、多分そうだね。結構書いてる人によって違うけど、多分、本当は、この最初の事件だけなんだと思うよ?」
 後は、と弟は続ける。
「この後は、事件の現場にエカルラート参上ってメッセージが残されてた…っていうのが正しそう」
「うん…」
 エドワードは顎を押さえつつ、頷いた。
「で。まず最初の事件に戻るけど。カードが届いて。最初はこの人、上官?この人何かの悪戯だろうって相手にしなかったから、世間には明らかになってなかった。…だけど、ある日怪人はやってきた。侵入の手口は、それ以降の事件と共通してる…まず遠距離からの射撃で、明かりが落とされて、暗くなったところでターゲットが誘拐される」
「…ターゲットがいる場所によっても多少の差はある。最初は結構でかい屋敷だったから、家全部の明かりを落とすために配電盤が撃たれてる。…確かにその瞬間に侵入するなら、エカルラートには協力者が必要だ。配電盤のことを調べるんだとしても、期間と仲間、費用は必要だよな。それに配電盤を狙って落とすなんて、シャンデリア落とすより難しいんじゃないかな」
「うん」
 頷くアルフォンスに、今度はエドワードが言葉を続ける。
「最初の事件の時、エカルラートは、未亡人がいる部屋の壁を爆破して突入してる。…派手だよな。だけど現場には発破の残骸が見当たらなかったし、銃撃は最初の明かりを落としたものだけだったから、これは錬金術ではないか、と噂された。オレも、それには賛成。もしも現場に本当は残されていた証拠を、軍が握りつぶしてないのなら、だけどな」
「あー、遺留品なんて、結局軍じゃないとわかんないもんね…」
「そういうこと。…でもまあ、それでもオレは、これは錬金術だと思うぜ」
「どうして?」
 首を傾げるアルフォンスに、エドワードは少し考えるようなそぶりを見せた後、こう答えた。
「―――時間だよ」
「時間?」
「うん。…錬金術なら、錬成陣を発動させればいい。だけど発破だったら爆弾仕掛けないといけないだろ?大体未亡人は部屋の中にいたけど、まぁ中と連絡してたなら別だけど…、威力を計算しないとターゲット自身を傷つけちまう。その日の天候とか風向きにも左右されるだろうし…設置してる間に捕まっちまう」
 エドワードは一度肩をすくめ、まとめる。
「だからさ。発破より、錬金術の方が早い。絶対に。陣はあらかじめ紙かなんかに書いておいてもいいわけだろ?後は発動させればいい。それは一瞬だ。それに、陣を書いた術者がそこにいるんだったら…まあつまり、怪人本人が錬金術師だったんだとすれば、天候とかその辺の調整はその場で出来る。大掛かりな設備もいらないし、早いじゃないか」
「…あ、…そうか、錬成陣をあらかじめ、って…赤い手袋?」
 アルフォンスの声に、エドワードは頷いた。
「そうだと思うぜ?」
「あ、じゃあもしかして、最初は爆破だったけど次は雨降らせたとかっていうのも…」
 エカルラートが逃亡、あるいは襲撃の際に使った奇抜な攻撃が毎回異なっていたのは、あらかじめ陣を用意していたからなのか、とアルフォンスは再び問う。
 そこでエドワードは、にっと笑った。
「爆破な。オレよくよく考えてみたんだよ」
「なにを考えたのさ」
「爆破っていえば、壁を直接爆破したんだと思うよな」
「…?違うって言うの?」
 いや、とエドワードは首を振る。
「結果として爆破されたのは壁だ。だけど、…壁そのものを爆破させたとは限らない」
「え?どういうこと?」
 エドワードはなぜかそこで口をつぐんで、もったいぶった動作で胸をそらす。そしておもむろに、ぱちん、と指を鳴らした。
「……。なにそれ」
「モノマネ」
「…。…大佐?いつから兄さん大佐のファンになったわけ」
「後半はド外れだ。訂正しておけ弟よ」
「そんなことはどうでもいいけど。なに、大佐がエカルラートだってこと?」
「大佐が、とは言わない。あいつだって十四年前ならオレと同い年くらいだろ?まさかそんな大それたことしねぇだろ」
 まあオレも最初は疑ったけど、と言うエドワードを、なぜかアルフォンスは黙って見つめた。
「…なんだよ」
「…兄さんと同い年だと大それた事をしないっていうのはさ、何を基準に言ってるのかと思ってさ…それはつまりさ、自分は規格外って認めてるってことなのかと思ってさ…」
「誰が規格外にちぃせぇミジンコど…」
 歯を剥く兄の両の肩をがっと抑え、弟は強引に兄を座らせた。
「まあまあ。落ち着いて。…で、大佐じゃないけど大佐みたいな錬金術師じゃないかって?」
「…大佐だとは断定できないけど、だからって奴じゃないって断定できるわけでもないんだぞ。そこは保留にしといてくれよ」
「…はいはい。で」
「だからだな、いいか?雨を降らせるってのは、結局、空気中の水蒸気を液体に変えたって事なんじゃないのか。単純に」
「雨じゃないじゃん」
「いや、雨って書くしかないだろ。普通は」
 それでもまだ理解できるだろう、とエドワードは言う。まあ言われてみればそうか、とアルフォンスも考え直した。
 錬金術においては…、と難しく説明するより、雨とした方がわかりやすいのは確かにそうだろう。
「なんかさ、どうでもいいけど」
作品名:Ecarlate 作家名:スサ