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13時間の憂鬱

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チッ!まただ---。

12月、ロンドン行JALの機内。
急遽決まった出張のため、普段のビジネスクラスが取れず、エコノミーの席に乗り込む。

搭乗ステータスで最上位にいる俺。
航空会社の方も気を利かせて、非常口前の窓側を提供してくれた。
ここであれば、少なくとも足は伸ばせる。 

「申し訳ありません。」
担当のCAがすまなそうに俺に言う。
「良いですよ。隣席はブロックしてくれたんでしょ?」
エコノミーの場合、窓側から3席。 
中央を空ければ、まずまずのスペースは確保できる。
「実は、最終段階までブロックしたのですが、急遽----。」

通常、クリスマスシーズン前のこの路線はほぼ満席になる。
仕方ないか---。

すると、見るからに田舎のお大尽、といった風采の小太りの中年男性がやって来た。
「ああ、ここや!ここや!どうもどうも!急に外国出張しろって、ウチの社長も、ホンマに困ったもんや!こちとら、外国なんて初めてや!---。」
既に旅行帰りの様に両手に荷物を抱え、俺の隣に座る。

ゲッ!こいつと13時間隣り合わせか!
思わず頭がクラクラした。

俺の今回の出張は、2年かけて纏めた取引の契約。
当初は来年の予定だったが、相手先の都合で、前倒しに変更。
機内で、契約書の最終チェックをしなければならないのだが---。

機体が離陸し、暫くしてシートベルト着用サインが消える。

俺はPCを取り出し、早速仕事に取り掛かろうとした。

すると---。

ガサガサッ---隣席が騒がしい。

隣の親父は、何と弁当持参!
おまけに鮒寿司!
強烈な臭いに、親父を挟んで通路側に座っているフランス人が、思わず顔を顰めている。

---頼むから、早く食い終わってくれ---
俺も心の中で叫ぶ。

しかしながら、この親父、嬉しそうに、実にゆっくりと寿司を頬張る。
そして、誰にともなく一人で喋っている。
「---ロンドンちゅうところは、なんや、えろう物価が高いそうやな。貧乏出張やから、節約せにゃならん!飯もえろう不味いそうやし、困ったもんや---。おねえさん、お湯ありまっか?」

ゲッ!今度は味噌汁を取り出した。

CAの顔が引き攣る。
「お客様、もうじきお食事をご用意しますが---。」
「機内食は機内食や!まずは日本の味で元気つけなならん!それには味噌汁や!」

鮒寿司の強烈な臭いに、味噌汁の香りがミックス!

周辺席にいる外人客が一斉に鼻をつまむ。



---こういう日本人が、国際的な評価を下げるんだよな---

口で息をしながら、俺は契約書チェックに没頭しようとした。
今回の契約。
俺の会社、五藤商事が、イギリスの大手通信会社から、携帯電話向通信衛星プロジェクト一式を受注。
基本契約は既に結んだが、今回は仕様を織り込んだ本契約を結ばなければならない。
本契約には、設計仕様に定められた各部品メーカーとの取り決めも記載する必要がある。
俺は、画面をスクロールしながら、条件チェックに没頭した。

---んッ?---

突然、右肩に重力を感じる。

ガ~ッ!ゴア~ッ!

隣の親父が爆睡!
しかも、思い切り俺に凭れかかって---。

俺は、右腕を持ち上げ、親父の身体を元に戻す。

---全く、困ったもんだ!---

また暫く、俺は契約書に没頭した。

すると今度は、親父がむくっと起き出した。
「そうや!国際線は映画が観れるのや!折角やから観なあかん!」

---黙って観ろよ!---

「はははは!こりゃおもろいわ!」
ヘッドフォンをしながら、個人用画面に一人で突っ込む親父。
どうも、お笑いを観ている様だ。

---映画はどうなったんだ?---


東京からロンドンまで約13時間。

あと9時間もある。
俺の神経はもつだろうか?



作品名:13時間の憂鬱 作家名:RSNA