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てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
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「初体験・佳恵編」 第三話(最終回)

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第三話


「お義母さん、貴雄さん早引きして帰ってくるって。一緒に晩ご飯食べに行こうって言ってました」
「そう、珍しいわね・・・よっぽど佳恵のこと堪えたのね・・・いい機会になったわね、優美子さん・・・家族ってこういうことでも起こらない限り考えてみる機会なんてないのよね。あなたも貴雄との事いろいろと考えたでしょ?」
「はい、私がもっとあの人のこと考えてあげなければいけなかったと思っています。自分の嫌な気持ちがきっと伝わっていたんだと思いますから」
「そう、良かったわ。これで安心ね・・・佳恵の事は温かく見守ってやってね。雄介さんとお話ししましたけどとっても素敵な男性よ。あなたや貴雄が心配するような子じゃないから」
「はい・・・お義母さんには本当にお世話かけました。ありがとうございました」
「礼は佳恵に言って・・・」

「ただいま!佳恵!」
貴雄が帰ってきた。佳恵は玄関まで出て頭を下げた。
「お父さん、ゴメンなさい、許してください」
「佳恵・・・いいんだ、お父さんが悪かった。お前のこと理解してやれなかったこと謝るよ」
佳恵は嬉しかった。父が自分に理解を示してくれたことが生まれて初めてのことのように感じたからだ。泣きながら父親に抱きついた。
「佳恵・・・」
貴雄も言葉にならなかった。溢れる涙を拭おうともせずにただ強く娘を抱きしめていた。

「私からもう何も言う事なんか無いね・・・貴雄は佳恵だけじゃなく優美子さんのことも大切にするのよ」文子はそう言いながら帰り支度をした。
「お母さん!一緒にご飯食べに行きましょう。優美子にもそう言いましたから」
「いいのよ、私は。今夜はあなた達だけで食事に出かけなさい。それから雄介さんにも連絡してあげてね、きっと心配しているでしょうから」
「佳恵、お父さんは許すからいいぞ、電話掛けてあげなさい」
「うん!そうする」
貴雄は母親を阪神電車の駅まで送っていった。その間に佳恵は雄介に電話をした。

「もしもし、佳恵です。今お父さんに許してもらったから・・・心配かけてごめんね」
「そうか、良かったな。きっとお父さんお前の事が好きなんだよ。俺の母さんだってなんだかんだ怒ってばかりいるけどきっとお前のお父さんと同じように俺の事好きだって思ってくれているよ。親なんてそういうものなんだから」
「そうね。おばあちゃんに言われたの。あんたも母親になったら親の気持ちが解るだろうって。でもそれまで待たずに解ったから良かった。これからは心配かけないように仲良くするわ」
「そうしろ。話せば解るって思うよ。俺にも今回はお前の強い気持ちが解ったから嬉しかったよ。ずっと大切にするから・・・好きでいてくれよな」
「うん、雄介も私のことずっと好きでいてね」
「もちろんだよ。じゃあな、二日に逢おうぜ。風邪引くなよ」
「ありがとう・・・じゃあ、あっ待って雄介。お母さんが電話代わって欲しいって・・・」
「えっ?そうなの・・・はい、こんばんわ」
「雄介さん、ゴメンなさいねあなたにまで心配かけて。ねえ良かったら一度遊びに来てくださらない?お正月でも構わないから」
「はい、そうですか・・・じゃあ、二日に逢う約束をしていますので・・・帰りに寄らせていただきます」
「そうなの!良かった・・・じゃあ美味しい晩ご飯用意しなくちゃね。お母様にもその旨伝えて下さいね」
「解りました。その日は佳恵さんの家に寄ってから帰ると言っておきます」
「楽しみにしています。佳恵に代わるね」
「雄介、良かった?」
「ああ、そうしたかったし・・・じゃあ、よい年を」
「雄介もよい年を」

昭和44年が過ぎて行こうとしていた。大晦日は家族で年越しそばを食べながら紅白を見るのが恒例になっていた。
雄介が好きだった、いしだあゆみはブルーライトヨコハマを歌い、印象的な歌い出しの由紀さおりの夜明けのスキャット、物議を呼んだカルメンマキの時には母のない子のように、男性陣は内山田洋とクールファイブの長崎は今日も雨だった、鶴岡正義と東京ロマンチカの君は心の妻だから、そしてトリに森進一の港町ブルースが歌われて一年が終わった。

お年玉を両親と祖父母からもらいアルバイトの給料は全部貯金して雄介は二日の朝、家を出た。
「お母さん、武庫川の佳恵の家に初詣の帰りに寄るから晩ご飯は食べないよ」
「雄介、あちらのお家にこれ持って行って・・・厚かましくしないようにしてね」
「解ってるよ、そんなこと。次は佳恵に来てもらうから、いいだろう?」
「ええ、そうして。気をつけて出かけるのよ」
「うん、じゃあ」

少し肌寒さを感じたうす曇の日だったが、今日もVANルックで身を固めて待ち合わせの梅田駅に向った。
混んでいるかも知れないが年に一度だから思い切って京都まで行く事にしていた。国鉄で京都駅まで行きバスで平安神宮まで向った。
人ごみはすごかった。河原町で昼ごはんを食べようと思ったが余りの人出に歩く事さえままならない状況であった。

「佳恵、これは食べれないなあ・・・どうする?」
「そうね、大阪まで戻ろうか?お腹減ったけど我慢して」
「じゃあ、阪急で帰ろう。四条河原町まで直ぐだしな」
「うん、それとも京阪でもいいよ。四条駅目の前だし」
「そうか・・・特急で京橋まで行けば混んでてもショッピングモールに食べるところがあるよな」
「雄介のバイト先ってそこじゃないの?」
「いや、俺は守口市駅のショッピングモールだから」
「そう・・・じゃあ、恥ずかしくないよね」
「バイト先でも恥ずかしくなんかないよ。どうしてそう思うの?」
「だって・・・雄介の彼女あんな子なんだって言われちゃいそうで・・・」
「佳恵は可愛いよ、そんな事言うんじゃない!」
「だって・・・」
「だってじゃない、もう言うなよ」
「うん」

佳恵は雄介が自分の事を好きで居てくれることは嬉しかった。自分も誰にも負けないぐらいに好きでいることも事実だ。
釣り合いが取れるかという目で見れば自分の方が劣っていると初めから考えていた。
性格の面でも暗いし、外見だってやや太めで色だって黒い。足も決して細いとは言えないし胸も小さい。雄介は背も高いし、頭もいいし、痩せてて色白で服装のセンスもいい。いつか可愛い子が雄介に告白したら・・・自分なんか捨てられてしまうと当たり前に思ってしまうのだった。それは好きなればなるだけ現れてくる感情だった。

夕方になって雄介は武庫川の佳恵の家に着いた。少し緊張したが、自分らしく振舞おうと決めて玄関を入った。

「お邪魔します。井上です」
「いらっしゃい!おめでとうございます・・・でしたね。雄介さんね・・・上がって頂戴。母の優美子です。あなた来られましたよ」
奥の部屋から父親の貴雄が顔を出して挨拶をした。
「明けましておめでとうだね。佳恵の父、貴雄です。腰掛けてくださいよ」
「明けましておめでとうございます。淀川高校二年の井上雄介です。座らせていただきます」
「うん、なかなか素敵な青年だな。こりゃ、佳恵が好きになるわけだ」
「あなた!初対面でそのようなこと仰って・・・ゴメンなさいね雄介さん」
「いいえ、光栄です。今日はお邪魔させて頂いてとても嬉しいです。これ・・・母から預かってきました。収めて下さい」