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さかなととり

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1 茶番のはじまりは、






人との出会いに至るまでは、いろんな事があり、いろんな人との別れもある。




夏真っ盛り、世間はもう夏休みに入る一歩手前。

代々木のとある場所・・・。
東京には似つかわしくないような木々が鬱蒼と生い茂った競技場公園。
公園の噴水で遊ぶ親子連れも半そでに身を包み、夏の日差しの下暑さを紛らわしているようにも見えるが、
その暑さを煽る様に、降り注ぐ日光が、地面へと黒々とした影を落としている。
みんみん蝉が木陰でなき、夏が真っ盛りであることを騒ぎ立てている。
どこの小学校の生徒であろうか?
信号待ちをしている小学生たちは、夏休み前の終業式という通過儀礼を終えて、赤や青、黒のカラフルなランドセルに大きな荷物と観察日記をつけるであろう朝顔の鉢を大事そうに抱えるそんな姿が見かけられる。
そんな目の前の道には、大勢の人間が集まり小学生の足を少しだけ止めている。
視線の先には、人の群れ。
黒山の人だかりのように、まるで蟻の子のように。
普段、そんなに人の集まることがないその場所は、少し異様な風景でもある。

場内を埋め尽くす人の波、競技場の前には開幕が今か今かと待ちわびる人の群れ。
ここ、東京代々木にあるとある競技場。
その中にある大分昔に作られた水泳場にはこれまでなかったであろうぐらいに賑わいを見せている。
競技場前には、小さなイカ焼きや、たこ焼きなんかの屋台が軒を連ね、まるでお祭りの騒ぎである。
そんな要素も、小学生を引き止める要素のひとつになっているのは、動かぬ証拠である・・・が、

赤や、青、黄色などののぼり旗には、『世界水泳選手権最終選考会』とだけある。



高鳴る心臓の鼓動に、地響きのように響く歓声。







とは言え、そんな騒ぎが無縁のバックステージに長時間いる篠崎さかなには関係ない。

さかなは、湿ったプラスチック製の椅子に座って事が始まり終わるのをただひたすら待っていた。
手には、スポンジ素材のタオル。
足は、先ほどからひっきりなしに武者震い、というよりも貧乏ゆすりを繰り返している。
服装は、上半身裸に少しのサブいぼ。下半身はというと小さな競泳用の赤いウェア。

そう、篠崎さかなは水泳の試合が始まるのを待っている一応は選手なのである。
その視線の先には、非常口、いつでも逃げ出すことのできる場所に一人きり座っていた。
更衣室には、”篠崎さかな様”控え室という一枚の紙が張られ、緊張感を一層ます。

ストレッチも、軽く流す為に練習用プールで、1Kmも泳いだ。
だが、もうこの緊張感からは開放されない、もうプールの塩素で大分脱色された薄茶色の頭を抱え込むしかしようがない。
そして、始まり終わりを待つまでは・・・。



(なんで、俺。こんなところにいるんだ?)



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この茶番劇の始まりは、彼女で”あった”『真理子』の一言からはじまった。




週の真ん中のある日の昼下がり。


外は、沖縄の方からやってきた台風の暴風の影響で、朝から雨が降っていた。
テレビの気象予報士が警報や、注意報では昼から暴風地帯に入ると言っていたが、特別風は強くはない。
空の色は刻一刻と変化し、時にはその風の影響でなのか、青空を見せるがすぐさま台風どくとくの暴風雨へと変化をさせていく。

そしてそんな中、篠崎さかなは自分のお気に入りの青い空色の傘を広げながら自分の会社を後にする。

2年の付き合いのある自称彼女の”大崎真理子”がお昼休みに話があると携帯電話にメールをよこし、この2週間ほど音沙汰もなかった彼女の指示通りに、
いそいそと会社近くのレストランであり喫茶店の『モンマルトル』へと行く事になった。
さかなの会社からその場所までは5分とかからない場所にあるので何も断る理由もないし、丁度昼休みということもある。

『モンマルトル』は、最近はやりのイタリアンレストランで、女性に大人気。
この夏お勧めの旬の野菜料理をお勧めしているなんともカジュアルな喫茶店でもあった。
6月と、7月号の『関東、ボーノ百選』と言うこの界隈では有名な料理の雑誌に2ヶ月連続で取り上げられたのもともなって有名と言っても良かった。
一度だけ行った店内にはイタリアを意識したのか、黄色や緑といった明るい色合い、そして見た目に鮮やかなバイキング形式のサラダバーがあり、いくらでもお変わり自由というところがさかなは気に入っていた。
が、いつでも店の前には人だかりでこんな時でなければもう足を踏み入れることはないだろうと鷹を括っていたさかなは思わず微笑んだものだ。
大きく開かれた窓から覗く事ができる外には、オープンテラスでなんとも今時ないい雰囲気を漂わせている。
人気雑誌の編集者である大崎真理子は、この場所の特集記事の取材の為に来ており、さかなはさかなで料理好きな相手の会社の接待に使い、二人はであった。
真理子は、今時な美人で化粧もしっかりしている女性で、なぜさかなはこの女性と付き合えることになったのか、たまに疑問に思ったこともあったが、なんとなく頷ける節もあることはあった。
たまに、食事をするにしても居酒屋やなんかで、別段お金の掛かった食事に行くわけでもない。
セックスも出会って毎回するわけでもない、要するに”都合のいい男”という感じである。
だが、他に女性にモテルという訳でもないさかなは、その”都合”に合わせる様にずるずると3年も付き合っている。
まるでタクシーかなんかを呼ぶようなしぐさに、昔はセクシーさや、美しさを感じたものだ。
だが、このところ仕事の忙しさと真理子を持てはやす気力がなくなり、自然と二人は遠のいていった。
今日は、お昼休みとはいえ、あいにくの雨、そして台風警報。

ランチがおいしい店だとは言え、客足は少なかった。

店の扉を開けると客はぽつりぽつりといるだけで、その中から真理子を探すのに、何の苦労もない。

遠くの席に、茶色の長い髪の毛を指にくるくると巻きつけながら短いスカートながら足を組み、目の前にある雑誌を読みながらアイスコーヒーを飲んでいる真理子の姿を見つけるさかな。
一際濃く引かれたアイラインに、際立つような美人顔、そう見つからないほうが難しいのだ。


(あそこか・・。)


さかなは自分の持ってきた傘をすぼめると、店のドアのすぐ横にある傘立てに立てて、スーツについているであろう雨のしずくを払う。
その様子に気がついたのか、真理子がこちらへと手を振ってきた。
それまで、真理子のことを見ていたであろう数名の男性が、彼女の手を振る方向へとくるっと視線をやる。
その視線がすぐに外されたことを感じて少し、やるせなくなるさかな。

こんな事はしょっちゅうだ。

多分、彼だなんて思われていないだろう。呈のいい男友達か、おんなじ会社の同僚か。
真理子に比べて、別段美形な顔立ちもしていないし、どちらかと言えば童顔で鼻だって高くもない。
短く刈られた髪の毛が、上へと申し訳程度にジェルで立ち上げられている。
作品名:さかなととり 作家名:山田中央