小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

充溢 第一部 第二十七話

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 

第27話・1/2


 部屋をいつもより念入りに片付けると、斜めに指した陽が、無性に孤独感をかき立てた。軽く買い物をして帰ってきても、胸騒ぎが収まらない。シーリアとお喋りでもしようと、ポーシャの屋敷に移った。


 同じ気持ちだったのか、それとも、誘われていたのか、頼りなさ気な男二人が雁首揃えて待っていた。
「君は少し眠った方がいい」
 フェルディナンドは、大人のような風情で語りかけるが、人の屋敷で勝手にそんな指示をするなんて、褒められたものじゃない。
 彼は私を諭すつもりで、逆に窘められてしまったことに、屈辱を感じることはなかった。一人の立派な騎士が庶民の小娘に馬鹿にされてよい筈ないのに、そんな秩序はこの屋敷では通用しないのだ。
 アントーニオはやや緊張気味だった。ここに来て柄にもない話だ。
 ミランダは自分と兄夫婦の屋敷に帰らず、ずっと入り浸ったままだ。ネリッサが帰ってくるのを待つという。

 ネリッサが戻ってきて、さぁ、シザーリオは何処だという話になると困る。フェルディナンドにその事を確認したくなった――いい加減分かっているとは思うけれど。
 苦労して遠回しに聞いてみると、あっさりと『あのメイドの事だろ』と答えた。落ち着き払っている姿を見ると、気を回した自分が馬鹿らしくなる。
 アントーニオを目の前にして、それ以上会話を広げたくなったので、さっさと話を打ち切ると、フェルディナンドが食い付いてくる。面倒くさいオッサンだ。
 どぎまぎしていると、アントーニオまで話に乗っかってくるので、困ってしまう。
「俺は気にしないぜ。
 情けない男って分かっているんだ。あの裁判で死んだものと思っているからな」
 アントーニオは、開け放したような顔をして、椅子にのけぞっている。その卑屈な態度が、どうにもこうにも頭に来る。こっちの気遣いには鈍感なのに、いざ気付くとなるとこの態度だ。もっと自信のある男はいないものか!
 話を蹴飛ばしてやると、アントーニオは、男を惨めにさせているのはどっちだと、からかい調子で反撃してきた。
 二人の不甲斐ない男に挟まれて、今までの努力が全て無意味だと分かった。
「そうね。悪かったわね。下らない事に気を遣っちゃって――これからは黙って踏みにじることにするわ」
「いいねぇ。魔女はそうじゃなくちゃいけない」
 口にすればするほど、自分が悪人になる。徐々に見下した調子になって行くことに気付いて口をつぐんだ。


「女の騎士団長とか素敵過ぎるだろ?」
 フェルディナンドまでふざけ始めた。これは。自分どころかネリッサまでも馬鹿にされている気がして、挑発に乗ってしまった。
「いや、本気なんだがな」
 とぼけた顔のフェルディナンドが余計に腹を立てさせる。
 洒落にならない話だ。話が本当なら、騎士ともあろう者が、殴り合いで女に負けたという事が白日の下にさらされる。他の騎士が黙って受け入れるとでも思っているのか?
 問い詰めていると、『自分は最近ツイているから問題ない』と言うばかり。
 息子が死んだばかりだというのによくそんなことが言えるものだ。かっかとして、それを非難すると二人の男が顔を見合わせて、気持ち悪い笑みを交わし合う。
「倅は死んでいないよ。君の薬で助かったんだ」
 彼らの話したいことがよく分からない。黙って聞いてやることにした。
 フェルディナンドの息子は、人形にされていた。マクシミリアンはこの人形を封筒として使ったのだ。薬が完成して、そのお陰で彼が目覚めた時、ポーシャがメッセージを受け取るように。
 かくして、ポーシャは彼との対決に向かうこととなった。
 そこまで分かっていて、よく暢気な顔していられるものだ。ポーシャがどんな目に遭っているのかも分からないというのに。
「あの魔女が負けるとは思えないよ」
 恩人に対して、よくそう言う口を利けるものだ――どっちが暗黒面に堕ちたのかしら。
「何はともあれ、倅も君のせいで生まれ変わったよ」
 一旦馬鹿な遊び覚えたら同じだ。そう言うと、二言目には若き故の過ちと簡単に片付けようとする。
 しかし、同じ若者でも真面目に仕事をしている人が大勢いるのだ。どちらが立派なのかは、明白ではないか?
 そして、その放蕩息子がしでかした様々な悪事の被害者は何と思うのだろうか? 運悪く通りかかった愚か者とでも言うのだろうか?
「あんまりふざけたこと言うと、二度と口利きませんよ」
 流石の父親も狼狽えた。
「悪かった。しかし、死んだ方がましとは思わないだろ?」
 さて、どうだろう。彼の事は、札付きの悪程度にしか聞いていない。事によっては、彼はあのまま死んでいた方が良かったと考えるかも知れないし、実験台として役に立たなかったら、その薬の使用に腹を立てていたことだろう。
 こちらが真剣に説教すると、フェルディナンドは目が飛び出さんばかりに見つめていた。見かねたアントーニオがまたちょっかいを出す。
「お嬢ちゃんは照れ屋だからなぁ。
 あの薬を使うにも、一々許可が必要だとか言うのかい?」
 要らないところで核心を突くのだから、この馬鹿! 確かに、命に関わる薬の使用を、相手が気に入らないから使うなと言うのは、ちょっとズレた発想だ。
 その事が急に恥ずかしくなって、素直に謝ると、フェルディナンドは何度も大きく頷き、その態度を大袈裟に褒め称え始めた。
 それを喜んでアントーニオは、更に冷やかす。
「おおっと、そんな事言ったら、嬢ちゃん照れすぎて倒れちまうぞ」
 馬鹿な男が二人して!
作品名:充溢 第一部 第二十七話 作家名: