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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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『総斎志異 第一話』 2

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『総斎志異 第一話』 2


それからと言うもの、羅卒は醜女(しこめ)の吾が女房の立ち居振る舞いを

目にするに付け、あの女の言葉通り、いっそ三行半(みくだりはん)でも叩き

付けてやろうか、と思ってはみるものの、女房殿の反応を想像すると、とても

勇気が出ません。

それじゃ、いっそ家出でもしようかと本気で考え始めたので御座います。



或る日例によって些細なことで女房に怒鳴られ、叩(はた)きで叩かれ

表の路地へ逃げ出した勢いで、例の屋敷跡へと向かいました。



飛び出したのが昼一寸過ぎ、秋も中頃となりますと日も短く、着いた頃には

辺りに夕闇が迫って居りました。



相手が真面(まとも)なものじゃない事は承知して居りますが、若い器量良し

からの誘いは、羅卒の助平心と出世欲を掻き立てるに充分で御座いました。



ところが、羅卒はキョロキョロ周囲を見回しては、頻りに首を傾(かし)げるので

御座います。



何故かと言うに、あの荒れた屋敷跡が見当らず、代わりに、一見して大名屋敷と

解る如何にも豪壮な構えの屋形があるだけで御座います。

何本もの太い赤松が形の良い枝振りで塀の上から伸びて居る様子から察するに、

さぞかし美しい庭造りが為されて居る事で御座いましょう。



どっしりとした門構えを前にして、羅卒がぼんやりして居りますと、

潜(くぐ)り戸が音もなく開き、中から声が聞こえたので御座います。



「お出でに成られたのですね。良う御座いました。どうぞ、お入り下さい」



此の前とは打って変わった丁寧な言葉使い、しかも優しく、綺麗な声音で

御座います。

羅卒は言われる侭に、腰を屈(かが)めて潜り戸から入りました。

そこには、例の若い女が手に提灯(ちょうちん)を下げて立って居ります。

驚いた事に、今日は浴衣姿どころではなく、白無垢の花嫁衣裳に身を包み、

綿帽子まで被っております。



入母屋造りの広い玄関を上がり、女の案内で長い廊下を暫く歩かされた後、

漸く大広間に辿り着きました。



それにしても、なんと長い廊下で御座いましょう。

何せ、今風に言って十五分も歩いたので御座います。



此の前見た荒れ屋敷の土地の広さからは、想像し兼ねる長さで御座います。



広い座敷の真ん中には、一人分だけの膳が並べられて居ります。、

女に言われる侭に、席に着いた羅卒は三の膳付きの本格料理に緊張するので

御座いました。

日頃の茶漬け飯とは比べ様もなく、生まれて初めての贅沢な料理を前にして、

どう手を付けるべきか迷うのも無理は御座いません。



女に薦められる侭に、飲んでは食い、食っては飲む内に、スッカリ酩酊してしまいます。

羅卒の様子を窺っていた女が言いました。

「十分召し上がられた様ですので、寝所へ参りましょう」



                       続