小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

「夢の続き」 第十章 勇介と靖国

INDEX|2ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

「貴史くん気遣いは無用じゃ。もう直ぐなにやらわしの孫になると言うじゃないか」
「まだ先ですよ。高校三年ですよ」
「直ぐじゃぞ、わしの元気なうちに洋子さんとの目出度い姿を見せてくれなされよ。あの世であんたのおじいさんに
報告しないといけないでのう」
「真一郎おじいちゃんにですか?まだ先でしょ、元気なんだから」
「この年になると解らんものよ。一年一年が勝負になるような気がするからのう」
「毎年夏に岡山に行きますよ。元気で居てください」
「嬉しいことを言ってくれるのう。息子なんかより親切じゃわい」

「お父さん!それは酷いでしょ。これからは由美が居ますから今まで以上に気遣いますよ」修司は弁解まぎれにそう言った。
「由美さんと仲良くやったらええ。わしのことは貴史くんが居るで構わんとけ。元気なうちは年に一度ぐらいは東京に
来るからその時に面倒見てくれ」
「おじいちゃん、おじさんにそんな言いかたしたらいけんよ」
「うん?言葉訛っとらんか?」
「うつっちゃったよ、ハハハ」
「面白い子じゃのう。退屈せんわ」
「貴史さんは義父と仲がいいのね。よかったわ、今日来てくれて」
「おばさん、そうなんですよ。今日は話がいっぱい出来そうで嬉しいです」
「じゃあ、お昼にしましょうか?洋子、準備して。恭子も手伝ってね」
「なんだかすっかりお母さんになってますね。よかった・・・」
「貴史さんのお陰ね。感謝しているわ」
「おばさん、貴史でいいです。そう呼んでください。おじさんも・・・」
「ええ?だって他人ですからそんなこと出来ないわ」
「冷たいね。他人じゃないでしょ?」
「貴史!変な言い方しないで!」
「洋子、お前耳がいいなあ・・・まあいいけど、俺だけなんか蚊帳の外って感じがするから嫌なんだよ」
「僕は貴史って呼び捨てにするよ。由美もそう呼べばいいじゃないか」
「はい、あなた、そうさせてもらいますわ」
「おばさんたち仲いいね。あなた・・・ですか」
「茶化さないでよ、もう・・・相変わらずなのね」
「洋子も俺の事、あなた・・・って呼ぶのかな?」
「私は、貴史!ってよぶわよ、ずっと」
「どうして?」
「私の貴史だもの」
「ふ〜ん・・・そういうものか」
「あらあら、貴史たちのほうが仲がいいんじゃないの?」由美は笑いながらそういった。

「羨ましい・・・私はお兄ちゃんって呼んでもいいの?」
恭子はそう尋ねた。
「照れくさいな・・・でも、そう呼んでくれたらいいよ。俺は恭ちゃんって呼ぼうかな・・・恭子でいいかな?」
「恭子でいいよ。ねえ?お姉ちゃんとのこと恭子に話してくれない?」
「何を知りたいの?」
「お姉ちゃんね、肝心のところになると話してくれないの」
「洋子が?どうしてなんだろうね」
「貴史、変なこと言っちゃダメよ」
「言う訳ないだろう。じゃあ後で話そう」
「うん、楽しみにしてる」

洋子は意識しないつもりだったが恭子と仲良く話している貴史が気になっていた。

修司も由美もこんなに大勢で昼ごはんを食べるのは初めてになっていた。わいわいがやがやと騒々しかったが
これが家族なんだと嬉しく感じていた。いつに無く父の勇介も機嫌よく、ビールをお替りしていた。

「貴史くんは靖国神社へは行ったことがあるのかい?」突然勇介が聞いてきた。
「ないです」
「そうか、近くだからご飯を食べたら行って見ないか?」
「歩けませんよ」
「修司に乗せてもらうから」
「ビール飲んでましたよ。ダメですよ。明日にしましょう」
「そうか・・・また来てくれるのか?」
「近いですから構いませんよ」
「泊まったらいいじゃないか。他人じゃないんだから」
「他人ですよ。無理言わないで下さい」
「修司!貴史くん泊めてやってくれないか?」
「いいです!勇介さん。明日来ますから。靖国の前で待ち合わせしましょう」
「そうか・・・悪いな」
「いいえ、構いませんよ」

アルコールがすすんだせいで勇介は程なく眠ってしまった。貴史は話は明日になると諦めて恭子に声をかけた。

「聞きたいことってなんだい?」
「はい、お姉ちゃんとは小さい頃から仲良かったのですね?」
「そうだよ。小学校、中学校、高校と同じだったからね」
「そう聞きました。じゃあずっと好きだったんですか?」
「洋子のことをか?」
「はい」
「中学三年生の頃から意識しだしたかな・・・恭子ぐらいの頃だよ」
「告白したんですか?」
「俺がか?キスはしたけど、嫌われた感じだったな」
「えっ!キスしたんですか?中学で?」
「内緒だぞ。強引にだ」
「そんな風には見えないのに・・・積極的だったんですね。びっくり」
「洋子は泣き出したんだ。それでまずいと思って黙って家に帰った。夏休みのことだったな」
「許してくれたのですか?」
「高校になってからな。広島へ修学旅行に去年行ったんだ。偶然だけど散歩に誘われて
洋子のほうから好きだって今度は告白された」
「すごい!本当ですか?ロマンチックですね・・・もちろんOKですよね」
「そりゃそうだろう。じゃなかったらここに居ないよ」
「そうでしたね。恭子も好きな人が出来たらいいなあ・・・自分から告白しても男子はいいんですか?」
「いいんじゃないの。でも遊ばれると危険だから、考えるんだよ」
「友達に男子から告白されて悩んでいる子がいるんです。相手は高校生なんです。お兄さんが話してくれたように
周りからは遊ばれないようにって忠告されているようなんです。どう思いますか?」
「う〜ん、中学生だから一対一の交際は勧められないね。友達と一緒に会うとか考えたらどうなの?」
「それはイヤだって言うんです。二人で会いたいって」
「好きなら仕方ないけど、そこまで思っていないんだったらやめた方がいいね。そんな気がする」
「気がする?予感ですか」
「そうだね。まだよく知らないもの同士だとどうしても思いだけが突っ走って、後で後悔する羽目になる事が多いからね。
年は違うけど俺の姉ちゃんがそうだったから、そう言うんだよ」
「お姉ちゃんが?そうでしたか・・・聞いて見るものだなあ」
「意味深な言い方だね?」
「はい、今の話・・・恭子の事なんです。お姉ちゃんにはまだ話していません。私が言いますからお兄ちゃんからは
言わないで下さいね」
「やっぱりな・・・解ったよ。慎重にな?大切な身体だから」
「ありがとうございます。父や母にも内緒でお願いします」
「もちろんだよ」

恋をするという事は素敵なことだ。人生がバラ色に見える。しかし、必ず傷つくそれも突然にだ。
貴史は自分と洋子のような関係は世間には無い特別の状態だと思っている。傷つくことも無く、つけることも無く
お互いに結婚に向かっている。幼い頃から二人だけ、今もそしてこれからも二人だけ。子供が出来たらその数だけ
増える幸せ・・・
体験者から聞く大東亜戦争の時期には考えられなかった今の状況に危機感さえ募る。平和ボケをしているんじゃないのか
と世間は言う。バブル景気に浮かれて日本人はその精神さえも金のために売ろうとしているように見える。

日曜日靖国神社の前で勇介と待ち合わせをした貴史はそのことを考えていた。