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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「初体験・香奈枝編」 第三話(最終回)

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第三話

慣れたキスの仕方に雄介はしばらく動けなかった。やがて唇を離して香奈枝は突然泣き出した。

「香奈枝さん・・・どうしたんですか?気に触ることしました?」
「ううん、ゴメンなさい・・・あなたみたいな優しい子に何をしているんだろうって・・・自分が許せなくなってしまったの。
このまま何もしなくていいからちょっとだけ傍に居て時間を頂戴。気持ちが落ち着いたら服を着るから・・・」
「本当のことを話してくれませんか?おれじゃあガキだから話せませんか?」
「雄介くん・・・ありがとう。実はね、今のところ辞めたの・・・明日一日だけ出勤して月曜日には引越しの準備をして九州に帰るの。いろんな思い出やいろんなことを考えていたらとっても淋しくなって雄介くんを誘った・・・許して頂戴。あなたの心を傷つけるような行動をして・・・本当にゴメンなさい」
「俺のこと好きって言ったのは誘うためだけだったんですか?」
「違うよ!本当に好きだよ。本当は離れたくなんかない・・・」
「おれ、佳恵の事は好きって思っています。裏切る気持ちは辛いけど、香奈枝さんの気持ち考えたら・・・切なくて。俺なんかでよければ、そのう・・・相手させてください」
「相手だなんて、そんな事言うんじゃないわよ!彼になって・・・甘えさせて・・・九州に帰っても雄介くんとの今日のことが支えになる。頑張ってゆけそうなの。あなたは彼女さんのこと手放しちゃダメよ」
「はい・・・恥ずかしいけどおれ佳恵と初めてのときに・・・入れる前に出ちゃったんです。だから・・・自信がなくて・・・」
「そうだったの・・・興奮してしまったのね」
「はい」
「何でもハイ!なのね・・・可笑しい」
「またそれですか?可笑しいかなあ・・・」
「ねえ?深呼吸してみて」
「こうですか・・・」
「そう、それからね、俺は頑張れる!って自分に言い聞かせてみて!」
「俺は・・・頑張るぞ!・・・ですか?」
「うん、じゃあ、雄介くんの思い通りで構わないから・・・電気消すわよ」
「はい・・・」

佳恵は雄介の写真を盾に入れて机の上に置いていた。父親はいい顔をしなかったがその写真を片付けるようなことはしなかった。
土曜日の夜に本を読んでいたら棚の上に置いてあった辞書が突然落ちてきて盾にぶつかりガラスが割れた。
「割れちゃった!雄介ごめんね・・・」片付けながらそう謝っていた。

雄介は香奈枝のリードで自然に初めての経験を終えた。
「今度は彼女さんとこうするのよ・・・解った?」
「うん・・・大丈夫だよ」
「良かった・・・なんか責任を果たせたって感じがする」
「香奈枝さんが・・・好きになりそうです」
「何言ってるの!こんな年上の女を・・・バカね。ここだけの言葉でいいんだから」
「俺バイトしてお金作って九州に行きますから・・・逢って下さい」
「雄介くん、よく聞いて頂戴ね。あなたのその気持ちはとっても嬉しいのよ。でも今日でお終いにして・・・その約束なんだから」
「解ってるよ・・・でも切ない・・・」
「今だけの感情だから・・・こんなことした後だからね、そうなるのよ・・・しばらくしたら忘れるから、大丈夫よ」
「香奈枝さん!」
雄介は強く抱きついた。香奈枝は迷ったが応えるようにして、もう一度受け入れた。

終電車が京橋駅を出発して自宅に帰ったのは12時を回っていた。雄介をこんな時間まで引っ張ってしまって申し訳なく感じていた
香奈枝は無事家に着くように祈っていた。月曜日の午後手荷物を持った香奈枝は新大阪のホームから博多行きの新幹線に乗って実家に向かっていた。新しい仕事を早く見つけて大阪でのことは忘れて暮らそうと心に決めていた。博多駅には母が迎えに来てくれていた。
顔を見て傍に駆け寄った香奈枝は理由もなく涙が出てきて母親に泣き顔を見せてしまった。娘がどんな苦労をしてきたのかその涙で全てを知った。
「香奈枝、辛かったんだね・・・ゆっくりして昔のようにまた頑張れるといいね」
「お母さん・・・ありがとう」後は言葉にならなかった。