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短編・『湯西川(ゆにしがわ)』にて 1~5

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短編・湯西川にて(1)中卒の清ちゃんは、


 湯西川温泉(ゆにしがわおんせん)は、
栃木県日光市(旧栗山村)の、日光国立公園内にある温泉です。
温泉地名の由来ともなった湯西川(一級河川利根川水系)の渓谷沿いに、
約500mにわたって旅館や民家が立ち並んでいます。


 ほとんどの旅館で、
渓谷に面した露天風呂を設置しています。
郷土料理は季節により、湯西川で捕れるイワナやヤマメ、
ニジマスなどの川魚、山菜や舞茸、チタケ(チチタケ)と呼ばれる
キノコ類などの山の幸が味わえます。
また、旅館によっては、野鳥や鹿、熊、山椒魚(サンショウウオ)といった、
珍しい郷土料理も堪能できます。
「ばんだいもち」という、うるち米でついた餅を
「ばんだい汁」や「じんごろう味噌」などで食べる郷土料理も有名で、
温泉街の飲食店では、手打ちの「日光そば」なども味わえます。



 旅館街から少し上流には、
昔は茅葺き屋根の民家を利用した土産物屋や、
食事処などが河畔の遊歩道沿いに並んでいて、それらも温泉街の一部を
形成していました。



 湯西川の先祖は、平忠実が落ち延びたとされています。
平家の落人伝説が今でも残る集落としても、よく知られています。
温泉の発祥は天正元年で、400余年の歴史を誇り、平家の
落人の子孫が発見したと伝わっています。



 追討から逃れ、身を潜める山村生活を営み生きるために、
この地では今でも、端午の節句には鯉のぼりを揚げないといわれています。
たき火をしない(煙を立てない)、鶏を飼わないなどの
独自の風習が、長年にわたって残されてきました。


 鬼怒川温泉の奥座敷とも称される
この湯西川温泉に、清ちゃんが芸者修業で訪れたのは
今から半世紀あまりも昔のことでした。
中学を卒業したばかりの、お下げ髪に赤いほっぺをしたこの女の子は、
当時、秘湯とされたこの温泉地に、たった一人でやってきて、
お春母さんのもとで、芸者修業を始めました。


 中卒が「金の卵」と、世間ではもてはやされながらも、
高校進学が過熱してきて、その終焉をむかえようとしていた、
そんな時代の矢先のことでした。