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南 総太郎
南 総太郎
novelistID. 32770
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『偽りの南十字星』 32

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『偽りの南十字星』 32

シンガポールの樹木は常に緑色の葉を茂らせている。
しばしば散策する近隣の植物園(ボタニック・ガーデン)ばかりでなく、
街の街路樹も、若し紅葉の季節が少しでもあったら、どれ程素晴
らしいかと、熱帯の庭園都市を恨めしく思う事がある。

むせ返る様な緑の街にもクリスマス・ソングが流れる年末の或る日、
宗像は秘書の差し出す受話器を受け取った。

「もしもし、宗像さんですか? 村田さんからの伝言です。
XX時の便でシンガポールへ向かいます。 私、弁護士のXXXです。
ただ今、出国ゲートを通過して行くのを確認しましたので、もう大丈夫です」
「ああ、そうですか。いろいろお世話になりました。有難う御座います」

かなり癖のある英語だったが、聞き取れた。

宗像は頃合をみて、事務所を出ると待たせてあった社用車でパヤレバー
空港に向かった。運転手は最近中国系の陳(タン)からマレー系の
ザイヌディンに代えたが、大人しい運転で気に入っている。

パヤレバー空港も来年中頃には、其の役目を終え、大規模なチャンギ海辺の
新国際空港にバトンタッチするらしい。パヤレバーは空軍専用の飛行場になる。

到着ロビーに出て来た村田と細田は、いずれもホッとした表情をしている。
略2ヶ月に亘る軟禁状態から開放されたのだから無理もない。
ここは、快適安心なシンガポールである。
あの長居したくない感じのインドネシアではない。

早速予約済の日系ホテルに向かった。
チェックインを済ませ、部屋に入ると村田は早速留守宅の奥さんへ国際電話をした。
これで、正月は日本で過ごせると村田は笑顔いっぱいで両手を広げ、深呼吸した。
それから、突然宗像に抱きついて来て、泣き出したのだった。
あの豪胆を売り物の、村田とは思えない姿だった。
其の後、寿司屋へ急行、慰労の乾杯を交わした。

                             
                                  続