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茶房 クロッカス その4

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「ハハハハッ、だろうねっ。俺も最初は信じられなかったから」
「どうしてわかったの?」
「だって沙耶ちゃんが、このところ店に来て話すのはお母さんのことばかりで、それも、お母さんにどうやら恋人ができたかもって悩んでる内容なんだよ」
「えぇーーっ! それって私に恋人ってことよねぇー?」
「あぁ、そうさっ」
「まぁ、どうしましょう」優子はうろたえていた。
「俺だって、まさかそのお母さんが優子だとは、その時までは全く思ってなかったんだ。しかし、どうも話を聞いていると、妙に色々符合することが多くてね。例えばお母さんの仕事とか、お父さんとの離婚の時期とか、お母さんがデートで帰りが遅かった日とか……。そして遂に俺は、意を決して名前を聞いたんだよ。お母さんの名前を。驚いたよ! いや違うかな。ある程度その時には予感みたいなものがあったから、やっぱり〜って感じだったかも知れない。しかし、それでも優子なんて名前は良くある名前だから、もしかしたら違うかも知れないって考えていた。そう願っていたような気もする。だってこれまでずうーっと一緒に仕事していた沙耶ちゃんが、まさか優子の娘だなんて信じられなかったから……」
「――しかしその夜電話して、優子から直接娘の名前を聞いた時には、あぁ、やっぱり〜って観念したよ」
 優子はしばし頭が混乱しているようで、何も言わず黙って俺の話を聞いていた。
「それで、これはやはり相談するべきだと思ったんだよ」
 ようやく少し冷静になったのか、優子が言葉を挟んだ。
「えぇ、そうね。その方がいいわよね。で、どうしたらいいのかしら?」
「うーーん、俺も色々考えたんだけど、もし優子が、これからも俺と付き合ってくれる気があるのなら、やはり沙耶ちゃんにはちゃんと話しといた方が良いと思うんだけど、どうだろう?」
「そうねぇ、でも……、今まで一度もそんなことなかったから、はっきり言うと逆にショックかも知れないし……。でも一緒に仕事してる悟郎くんにしてみれば、何も知らせずに黙っているのはきっと辛いわよねぇ〜」
「あぁ、知らない時ならまだしも、知ってしまって、それなのに黙ってるっていうのは何だか嘘をついているみたいで辛いんだよ」
「そうよねぇ……」
「俺としては正直に話したいんだけど、ダメかな? 俺は優子との将来もきちんと考えてるつもりなんだけど……」
「悟郎くん、気持ちは十二分に嬉しいの。でもお願い。もう少しだけ考える時間をちょうだい。私、悟郎くんのことはもちろん嫌いじゃないわ。いえ、正直に言うなら好きなんだと思うの。でも、やはりどうしても少しだけ不安なの。それは悟郎くんだからじゃなくて、男性に対するものなのよ。分かってもらえるかしら?」
「――私も、できればこれからも悟郎くんとお付き合いして行きたいと思ってるわ。でもお願い、もう少しだけ考える時間をちょうだい。二、三日だけでいいから」
「分かったよ。じゃあ、また連絡くれるかぃ? 気持ちが決まったら」
「えぇ、約束するわ。必ず連絡するって」
 俺たちはそういう約束をしてその日は別れた。
 タクシーで一緒に送って行こうと俺は言ったのだけど、優子は一人で帰ると言って譲らなかった。それで結局タクシーを呼び、優子はそれに一人で乗って帰って行った。
 優子がそんな風に言い張ったのには、一つには俺に対する思いやり、そしてもう一つは、タクシーの中で男性と隣り合わせに座ることへの恐怖だったのかもしれない。
 例え相手が俺だったとしても、DVの心の傷は深いと聞くし……。
 優子が帰った後に俺は、ふっとそう思った。